2008年04月13日

廊下で遺伝子組み換え菌培養、実験後の微生物は滅菌せずに流しにポイ

「洒落になんねえぞオイ」と思わず頭を抱えたニュース。
あまりにも杜撰な内容に、頭痛すら覚える。
バイオ者は研究ジャンルに関わらず必読。
 
 
 
事の発端は先週流れたこのニュース。
廊下で遺伝子組み換え大腸菌培養、神戸大が処分を検討 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 神戸大は4日、医学部の教授や研究員が、遺伝子を組み換えた大腸菌を廊下で培養していたと発表した。

 遺伝子組み換え生物等規制法や学内規則では、こうした微生物は周囲への拡散防止対策をとった区域でしか扱えない。同大は実験を中止させ、学内の安全委員会で調査しており、結果が出てから処分などを検討するという。

 問題があったのは久野(くの)高義教授(分子薬理・薬理ゲノム学)の研究室。がん発症の仕組みなどを調べるため、関連する遺伝子を大腸菌に組み込み、その菌の培養器を、研究室のある基礎学舎北棟の廊下に置いて使っていた。久野教授らは「研究室が手狭になり、外に出した」などと話しているという。

 文部科学省に3月17日、「廊下での実験や不適正な処理が行われている」と匿名の通報があった。同大は実験に使った大腸菌は適正に処理され、汚染はないとと説明している。

正直に言うと、このニュースを見たときはちょっと同情的な心情だった。
日本のバイオ系の研究室というのはどこもスペースの確保には苦労している。
たとえ旧帝大レベルの研究室でも、一つの実験室に十人二十人の学生がすし詰めになり、
一つの実験机を3、4人で同時に使うなどざらにある。
だから「事故さえ起こらなければ大丈夫」とやっちゃったのかなと思っていた。
無論やっちゃいけないことなんだが。


しかしそんな心情も、週末に出た続報を読んで吹っ飛んだ。
実験後の微生物を滅菌せずに流しに捨ててたって、それ論外だろ。
asahi.com:遺伝子操作の大腸菌、下水に 神戸大教授が不法投棄指示 - 社会
 神戸大大学院医学研究科(神戸市中央区)の久野(くの)高義教授(57)の研究室(分子薬理・薬理ゲノム学)で、がん発症のメカニズムを研究するために遺伝子を組み換えた大腸菌や酵母を滅菌処理せず、違法に処分していたことがわかった。同教授によると、滅菌処理は手間がかかるため、院生らに違法な投棄を指示していたという。文部科学省は同大に調査と報告を求めている。

 久野教授らによると、同研究室では、発がんの仕組みなどを調べるため、大腸菌や酵母の遺伝子を組み換えて培養。少なくとも4年ほど前から、大腸菌などが入った培養液や寒天状の培地を加熱処理して死滅させず、そのまま下水に流したり、一般ごみとして捨てたりしていたという。

 遺伝子組み換え生物を扱う実験では、危険度に応じて管理方法が4段階に区分されているが、同研究室は危険度が最も低い「P1」レベルだった。遺伝子組み換え生物等規制法は、生態系へ影響を与えないよう、拡散防止措置を取らなければならないと定めている。違反すると、懲役1年以下か100万円以下の罰金と定められている。

 久野教授は朝日新聞の取材に「実験に使っていた大腸菌が人体に無害であることから、安全だと過信して処理に手を抜いてしまった」と話している。同研究室には助教、助手、大学院生ら約25人が在籍している。

 文部科学省生命倫理・安全対策室によると、3月17日に、処理について匿名の通報があり、神戸大学に調査を指示した。同大は今月4日、遺伝子を組み換えた大腸菌を廊下で違法に培養していたと発表。菌の処理方法については「調査中だが、流出は確認されていない」と説明していた。

 大阪大微生物病研究所の菊谷仁所長(免疫学)は「遺伝子を組み換えた大腸菌は生命力が弱く、自然界に出してもすぐに死んでしまうが、環境や人間への実害がほとんどないからといって、違法に処理するのは、倫理上の観点からも問題がある」と話している。

地元の神戸新聞からはもうちょっと詳しい内容のニュースが出ている。
神戸新聞|社会|廃棄は「教授の指示」? 神戸大大学院の遺伝子操作菌
 神戸大大学院医学研究科(神戸市中央区)の研究室が、実験で使った遺伝子組み換え大腸菌を減菌処理せず、そのまま下水に流すなど違法に廃棄していたとされる疑惑で、複数の研究生が「研究室の教授の指示で以前から(違法廃棄を)続けていた」などと証言していることが十一日、分かった。六年前には既に行っていたとする関係者もおり、違法廃棄が常態化していた疑いが浮上している。

 久野高義教授(57)が指導する分子薬理・薬理ゲノム学の研究室。教官や留学生を含む大学院生ら約三十人が在籍し、がんの病因解明に向けた実験などを行っている。

 違法廃棄していたとされるのは、実験に使った遺伝子組み換え大腸菌や分裂酵母で、実験室の流しにそのまま流したり、一般ごみとして捨てていたという。遺伝子組み換え生物は生態系に影響を与える恐れがあることから、拡散防止措置として高圧減菌処理などが法律で定められている。

 しかし、久野教授は研究生らに「外部にばれなければ問題ない」と専用装置による処理を指導していなかったほか、「もっとひどいものを捨てている研究室もある」などと話していたという。

 元研究生の一人は「六年前からやっていた。教授の指導だったので違法とは疑わなかった」と証言。在籍中の複数の研究生も「おかしいとは思ったが、指導を受ける立場としてこれまで言い出せなかった」と話している。

 研究生らによると、三月中旬に匿名の通報を受けて文部科学省から研究室に問い合わせがあった際、久野教授は突然、大腸菌などを高圧減菌処理。その様子をカメラで撮影していたといい、研究生らは「隠ぺいを図ったのではないか」と指摘している。

 また、同省が今月三日に行った研究室への立ち入り調査では、あらかじめ研究生らに指示し、立ち会わせないようにしていたという。

冗談抜きで洒落にならん内容。
故意犯ですかそうですか。
最初のニュースが訓告と減俸レベルの不祥事だとしたら、こっちは一発で懲戒免職もの。
ボス(教授)の指示で研究室レベルの行為というあたり悪質だよな。
この事件、まだまだ余罪が出てきそうな雰囲気で目が離せない。
コンプライアンス(法令順守)意識のかけらも無いこういうのがいるから、どんどん法規制が厳しくなるんだよ。


研究室のHPは現在閉鎖されているため、WebArchiveを掘り返してみた。
神戸大・院医・分子薬理ゲノム(WebArchive)


ORI 研究倫理入門―責任ある研究者になるために
posted by 黒影 at 18:47 | Comment(6) | TrackBack(0) | バイオニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 今回は大腸菌でまだ良かった。改造ウイルスなどをポィ!されたら堪らない。
    それでも今回のような失態の遠因は、日本の大学における理系部門の実験施設の劣悪さ、これが世界第二位の経済大国の大学か〜と思うようなインフラ整備の遅れにあるように思いますね。
    先日、NHK「クローズアップ現代」を見てたら、中国に留学してる日本人学生へのインタビューで、「電子顕微鏡は自分の居た日本の大学に無く、こちらに来て初めて触りました」との話に愕然・・・暗澹たる気持ちになりました。

    一方では、或る生活保護家族へのタクシー代助成金が1億とか2億とか・・・無為無能な木っ端役人どもと無責任な行政。納税拒否のゼネスト蜂起をしたいほど。

  2. Posted by 隠居 at 2008年04月14日 00:35
  3. そういえば、学習院で新バイオ研究棟をめぐり安全性で地元ともめているらしいのですが(こっちはP3でしたっけ?)、こういう事件が起こると他大学でも研究インフラの整備がますます進まなくなるんでしょうね。
  4. Posted by とむけん at 2008年04月14日 14:33
  5. ってか、何でそこの研究室はP1なわけ?
    その手の実験をする場所は、普通はP2で、捨てるときにはオートクレーブ、が当たり前では?
  6. Posted by apj at 2008年04月16日 00:24
  7. ↑ルールが変わったので、確認されては?以前のP2がかなりP1に変更されてます。
  8. Posted by bse at 2008年04月16日 07:59
  9. bseさん、
     了解です。
  10. Posted by apj at 2008年04月16日 12:15
  11. さすがにここまでひどいと出身校の人間としては
    「すいません!うちの学校のバカがバカやらかして
     本当にすいませんでした!!」
    といわざるを得ません。

    大腸菌の処理の際には、オートクレーブかける
    のは常識ではないのかと、小一時間うちの指導
    教官に説教してもらいたいです。
    ラボ全員正座で。
    厳しい先生でしたが、そのあたりはきちんとして
    いた方なので感謝しています。

    (ただ時々厳しくなりすぎて物投げつけられるにはちょっと勘弁してもらいたかった…)
  12. Posted by キバヤシMK3 at 2008年04月19日 09:25
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