2005年10月22日

We are still evolving―我々はまだ進化を続けている―

人類はまだ進化の途上にある。
というか進化の本質を考えれば進化が止まるというのはまずありえない。
たとえ形態の変化に反映されなくとも遺伝子は常に変化しているからだ。

ちょっと前にチンパンジーの全ゲノムが解読されたというニュースを紹介した時、
ヒトとチンパンジーでゲノムを比較すれば人の進化の道のりが見えてくるという話をしたが
早速ゲノム比較の研究成果が形になってきている。
 
 
 
進化生物学の基礎は遺伝情報の比較にある。
ゲノム情報の比較は生物種の系統関係のみならず、個々の遺伝子上に残る自然選択の痕跡まで明らかにする。

Natural selection on protein-coding genes in the human genome
Comparisons of DNA polymorphism within species to divergence between species enables the discovery of molecular adaptation in evolutionarily constrained genes as well as the differentiation of weak from strong purifying selection1, 2, 3, 4. The extent to which weak negative and positive darwinian selection have driven the molecular evolution of different species varies greatly5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, with some species, such as Drosophila melanogaster, showing strong evidence of pervasive positive selection6, 7, 8, 9, and others, such as the selfing weed Arabidopsis thaliana, showing an excess of deleterious variation within local populations9, 10. Here we contrast patterns of coding sequence polymorphism identified by direct sequencing of 39 humans for over 11,000 genes to divergence between humans and chimpanzees, and find strong evidence that natural selection has shaped the recent molecular evolution of our species. Our analysis discovered 304 (9.0%) out of 3,377 potentially informative loci showing evidence of rapid amino acid evolution. Furthermore, 813 (13.5%) out of 6,033 potentially informative loci show a paucity of amino acid differences between humans and chimpanzees, indicating weak negative selection and/or balancing selection operating on mutations at these loci. We find that the distribution of negatively and positively selected genes varies greatly among biological processes and molecular functions, and that some classes, such as transcription factors, show an excess of rapidly evolving genes, whereas others, such as cytoskeletal proteins, show an excess of genes with extensive amino acid polymorphism within humans and yet little amino acid divergence between humans and chimpanzees.

対訳
ヒトゲノムのタンパク質遺伝子上に残る自然選択の痕跡

 種族内でのDNA多型と種族間での遺伝子の多様性を比較することによって、浄化的選択の強弱との差と同様に進化的制約の中での分子適応の発見も可能となった。
弱い負の、あるいは正のダーウィン的選択が分子進化を駆動した範囲は種差によって大きく異なる。ある種の生物、例えばキイロショウジョウバエなどは、正の自然選択が広がった強力な証拠を示している。また、他の種の生物、たとえば自家受粉するシロイヌナズナでは、地域集団内で過剰な有害形質のバリエーションを示す。
 我々はヒトとチンパンジーの間での相違を見るために、ダイレクトシーケンスによって確認された39人のヒトの11000以上に渡る遺伝子のタンパク質コード配列多型をここに比較する。そして自然淘汰が我々の種の最近の分子進化を形づくったという強力な証拠を明らかにする。
 我々の分析は、3,377の潜在的に有益な場所から急速なアミノ酸進化の徴候を示している304箇所(9.0%)を発見した。さらにまた、6,033の潜在的に有益な場所から、これらの部位で弱い負の選択または平衡選択が突然変異に作用していることを示唆している、人間とチンパンジーでアミノ酸配列の差が小さい813箇所(13.5%)を発見した。
 我々は正負の自然選択を受けた遺伝子の分布の変化が、生物学的プロセスと分子機能によって大きく変化する事を発見した。一部のクラス、例えば転写制御因子では進化の速い遺伝子が過剰を示す一方で、他の遺伝子、例えば細胞骨格タンパク質ではヒト同士で広範囲なアミノ酸多型を示したが、ヒトとチンパンジーの間での違いはそれよりも小さいアミノ酸相違を示した。


人間同士の遺伝子多型、あるいはヒトとチンパンジーの遺伝子の相違を調べることで
ヒトの辿った進化の道筋を探るという試みはまだ始まったばかりだ。
それでも既にこれだけ結果が出始めているというのは実に面白い。

染色体ごとに正の選択がかかった部分と負の選択がかかった部分を染め分けているのがこの図
ゲノム同士を比較することで、ある遺伝子にかかった自然選択のタイプやその選択圧の強さを調べることが可能となり進化生物学は飛躍的な発展を遂げた。
一番調べやすいのは負の自然選択で、DNA配列の変化の度合いに比べてアミノ酸配列の変化が小さいタンパク質コード部位にはまず負の自然選択圧がかかっているとみて間違いない。
この調べ方の何が便利かって、かかっている自然選択圧がどのようなものか特定する必要なしに選択圧の有無を調べられる点だ。
負の自然選択は有害な変異が排除される選択圧で、安定化選択、純化淘汰などとも呼ばれる。

一方で正の選択圧を調べるのはちょっと厄介になる。
よく知られているものはある世代集団の遺伝子頻度と次の世代の遺伝子頻度を比較することで選択圧をはかるという方法だが、面倒な統計処理を行わないといけないので専門外の私ではちょっと説明しづらい。
興味のある人は進化生物学とかQTL解析とかいうキーワードで勉強してみるといいだろう。
この論文ではゲノム間の比較だけでやっているので、多分変化度合いが高い遺伝子を、遺伝子の変異が固定される率が高い=淘汰に残りやすい遺伝子として扱ったのだろう。


転写制御因子の違いが大きいというのも面白い。
ヒトとチンパンジーの遺伝子の違いは作られるタンパク質の種類よりも発現レベルでの差が大きいということはよく言われている。
今回の論文で報告されている転写制御因子の進化も遺伝子発現と深く関わってくる話なので、
やはりどの遺伝子をどのタイミングで使うかという点がヒトとサルを分ける大きな違いになっているのだろう。



この論文、中身はすごく面白いと思うんだが、あいにく専門違いで実際にどの遺伝子が淘汰にかかっているのかよく分からない己が恨めしい。
誰かヒトの遺伝子が専門の方がいたら解説して欲しいなあ、なんて虚空に向かってつぶやいてみる。


posted by 黒影 at 21:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | バイオニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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