国内では読売くらいしか取り上げていななかったが、
先週1000ゲノムプロジェクトという国際共同研究プロジェクトが始まった。
このプロジェクトは1000人のゲノムを解読してゲノムレベルの人種差、個人差を明らかにし、表現型との関連を調べてゆくゆくは遺伝病の研究やテーラーメード医療にも生かそうという、ヒトゲノムプロジェクト以来の大型プロジェクトだ。
英米中の研究グループ、ゲノム情報1000人分を解析へ : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
同グループによると、1人ひとりの遺伝情報の違いを詳細に調べるのが目的。病気に関連する遺伝型の探索は従来、重い遺伝病を除くと、人口の1割以上に共通するものしか見つけにくかったが、1000人分のゲノムがそろえば、1%の頻度で現れる遺伝型まで発見できると期待している。
解析には、DNAの一部の特徴に注目して、体質にかかわる違いを調べた「国際ハップマップ計画」の試料を活用する予定。日本人のDNAも含まれる。
この計画に参加した組織は次の3つ。
アメリカ:国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute)
イギリス:サンガー研究所(The Wellcome Trust Sanger Institute)
中国:北京ゲノム研究所(Beijing Genomics Institute)
この3つの組織のうち前2者はヒトゲノムプロジェクトにおいても中心となって活躍した機関なので、バイオ系の人なら名前は知っているだろう。
しかし北京ゲノム研究所はゲノムプロジェクトに強い関心を持っている人でもない限り、初めて名前を聞いたという人が多いのではないかと思う。
北京ゲノム研究所は1999年に設立され、以来イネゲノム(長粒種)の解読、ニワトリゲノムの解読、中国人ゲノムの解読などかなりの成果を上げて、一躍ゲノム解読のトップチームに躍り出た研究機関である。
元々バラバラな体制でヒトゲノムに参加していたためにプロジェクト終了後はその成果や経験をうまく生かせていない感のある日本と違い、ヒト・モノ・カネの集中投資でゲノムセンターとして完全に基盤を固めたという印象だ。
さて、1000ゲノム国際コンソーシアムからの共同声明は以下で読むことができる。
非常にいい文章なので翻訳してみた。
とりあえず3分の1程だが後で全訳するつもりだ。
genome.gov | 2008 Release: International Consortium Announces the 1000 Genomes Project
メリーランド州ベセスダ 2008年1月22日
国際研究コンソーシアムは本日、1000ゲノムプロジェクトの開始を宣言した。世界中から千人以上のゲノムを集めて解読するというこの野心的な試みは、ヒトの遺伝的多様性の詳細な地図を作り、医療に役立てることを目的としている。このプロジェクトは主に英国、ヒンクストンのサンガー研究所、中国、深センの北京ゲノム研究所、米国国立ヒトゲノム研究所から、そして部分的にNIHからの支援を受けて行われている。
1000ゲノムプロジェクトは総合調査チームの知見を深め、ヒトゲノムの新しい地図を作り上げるだろう。
そしてこの新しい地図は、現在のリソースとは比較にならない解像度で生物医学につながるDNAの多様性の見地をもたらすだろう。他の主要なヒトゲノムプロジェクトと同様、1000ゲノムプロジェクトによって得られたデータは誰でもアクセスできる公共データベースを通じ、速やかに世界中の科学コミュニティに公開される。
「1000ゲノムプロジェクトはこれまで誰も成しえなかったレベルの詳細さでヒトゲノムを調査するだろう。」
コンソーシアムの共同議長であるサンガー研究所のリチャード・ダブリン博士はこう述べた。
「このようなプロジェクトはほんの二年前には誰も思いもよらなかった。しかし今日、シーケンス技術やバイオインフォマティクス、そして集団遺伝学の驚くべき進歩のおかげで、今それは我々の手の内にある。ゆえに我々は前進する。大いに拡張されたツールを構築するために。そして人間の健康と病気に関連するより多くの遺伝的要因を見つける活動を加速するために。」
あらゆるヒトは、他の人と99%以上の遺伝子の相同性を持つ。しかし人によって異なる遺伝物質の小さな断片を理解することは非常に重要だ。なぜならこの違いは、病気のかかりやすさや薬に対する反応、環境因子に対する反応の個人差を説明する手助けとなるからだ。ヒトゲノムの多様性はハプロタイプと呼ばれる近隣遺伝子座のかたまりにまとめられる。これらは通常、情報の完全なブロックとして遺伝されたDNA配列である。
HapMapのような近年作成されたヒトゲノムの多様性カタログは、ヒトの遺伝学的な研究に有用であることが証明されている。HapMapとそれに関連したリソースを利用することにより、研究者らはすでにヒトの良く知られた病気リスクに関わる遺伝子多様性を含むゲノム領域を100以上発見している。糖尿病、冠動脈疾患、前立腺がん、乳がん、関節リウマチ、炎症性大腸炎そして加齢性黄斑変性症などだ。
しかしながら、現在のマップはそれほど詳細ではないため、研究者らは原因となる変異型を間違いなく特定するために、往々にして高価で手間のかかるDNAシーケンスを行ってこれらの研究の追試をしなければならない。新しいマップは研究者らがより迅速に病気の原因となる遺伝的変異に的を絞ることを可能とするだろう。そして一般的な疾患を診断し、治療し、予防するための新しい戦略を構築するために遺伝情報を使う試みを加速するだろう。
1000ゲノムプロジェクトの科学的なゴールは、多くのゲノムを調べ、人口母集団に対し1%以上の頻度で存在する変異型や0.5%以下の低頻度の変異型カタログを作成することだ。これには少なくとも1000人のゲノムをシーケンスすることを必要とするだろう。これらの人々は匿名であり、いかなる医療情報をも集められることはない。なぜならこのプロジェクトは、遺伝的多型情報を提供する基本リソースを開発しているからだ。このプロジェクトで開発されるカタログは、研究者によって将来、特定の病気を持つ人々の研究のために使われるだろう。