数年前に実用化されたピロシーケンサ等のことで、一回のランで数千万〜数十億bpの塩基配列を解読可能という、ゲノム解読用のとんでもなく高性能なシーケンサだ。
私は既に実験屋では無くなったけれど、以前は毎日シーケンサに向かっていた時期があり、今の専門であるバイオインフォマティクスにおいてもシーケンサから得られるデータというのは非常に重要な意味を持つので、この分野に対する興味関心は強い。
ウェブを見渡したところあまり情報が無いようなので、ひとつ資料をまとめてみようかと思う。
◆次世代ゲノムシーケンサ
次世代ゲノムシーケンサとして既に製品化されている物は次の3つ。
まずは各製品の紹介から。
1.ゲノムシークエンサー FLXシステム(GS20 FLX)
発売元:ロシュ・ダイアグノスティックス
1ランあたりの解読量:100Mbp
1ランあたりの時間 :7.5時間
ゲノム断片長 :200〜300bp 平均250bp(サンプルのGC含量によって変わる)
解読精度 :99.5%以上(コンセンサス精度99.99%以上)
価格 :7500万
次世代ゲノムシーケンサとして実績を一番積んでいるのがこのGS20。
454 Life Sciences社が開発したピロシーケンス法を用いるシーケンサで、
もう2年以上昔の話になるが、Natureに論文が出た時にこのブログでも取り上げた。
幻影随想: 超速ゲノムシークエンサー
他二つのマシンに比べると1ランあたりの解読可能な塩基数は一桁少ないが、他の機械に比べ長い配列を解読できるため、アセンブリにかかる手間は少なく、精度も高いのが特徴。
2.Illumina Genome Analyzer
発売元:Illumina
1ランあたりの解読量:1Gbp
1ランあたりの時間 :72時間(3日)
ゲノム断片長 :35bp
解読精度 :98.5%以上(コンセンサス精度99.99%以上)
価格 :1億2500万
1ランで1Gbp(10億塩基)の解読が可能なシーケンサ。
ただ解読断片長がかなり短いので、アセンブリは死ぬほど大変だろうと思う。
他の装置と比べてちと高い。
3.SOLiD(TM) システム
発売元:Applied Biosystems
1ランあたりの解読量:4Gbp
1ランあたりの時間 :192時間(8日)
ゲノム断片長 :35bp
解読精度 :99.94%以上(コンセンサス精度99.999%)
価格 :7800万(*)
SOLiD法(Sequencing by Oligonucleotide Ligation and Detection)を用いたDNAシーケンサ。
1ランあたり40億塩基という物凄い解読量を誇り、理論的には1ランでヒトゲノムを解読できる。
時間もかかるが、カタログスペックを見る限り高等動物ゲノムを読むのには一番向いていそうに見える。
NatureJapanに東大の森下先生の記事が出ていた。
日本オリジナルの遺伝子解析法と次世代シーケンサの出会いは新しい知見をもたらす
もっと詳しく知りたいという人はこういうレポートを買ってみるというのもいいだろう
市場調査報告書:DNAシーケンシング装置
こういう有料レポートは見出しだけでも勉強になるので、ついでにリンクしておく。
◆気になるコスト面の話
次に気になる運用コストのお話。
例えばGS20FLXはワトソン博士のゲノム解読に用いられているし、
国内だとタカラバイオがひとつ前のモデルを導入して微生物のゲノム解析に利用している。
・asahi.com: ワトソン博士、自分のゲノム公開 DNA構造発見者 - サイエンス
・タカラバイオ:次世代シーケンサーによる 高速シーケンス解析サービス(PDF)
タカラバイオの微生物ゲノム解析サービスは、一菌株350万、納期は一ケ月だそうだ。
後数年待てばもう1桁値崩れを起こすだろうが、まあリーズナブルな値段だと思う。
ワトソン博士のゲノム解読の場合、かかったコストが4か月100万ドルと朝日の記事に書いてある。ただしこれはあくまでも人件費や消耗品のコストなどの必要経費しか計算に入っていない。
asahi.com: ワトソン博士、自分のゲノム公開 DNA構造発見者 - サイエンス
ワトソン博士は2年前に、米バイオ企業「454ライフサイエンシズ」が提案したゲノムの公開計画に同意。同社は博士の血液をもとに67日間、約100万ドル(約1億2000万円)かけて、塩基配列を明らかにした。
結果は30日に博士に示されたうえで、31日に米国立保健研究所(NIH)のデータベース上で公開される予定。病気や知性、性格などと遺伝子との関係を調べる研究に使われることになるという。
この研究を行った454ライフサイエンシズは、上でも書いたとおりGS20FLXの開発元であり、言ってみればこの装置を扱うプロが自前の装置で行った研究だ。この研究は自分達の製品を売り込むための宣伝でもある。
そこらの研究機関が同じことをやろうとしたら、まずシーケンサの購入から始まって設備を用意し、人を揃えて訓練を受けさせ、等等どう考えても1年の期間と10倍近い出費を見込まねばならないだろうな。ハード面の費用を度外視して運用コストだけ考えても、ヒトゲノム解読に一人頭1〜2億円と言ったところだろうか。
ちなみに、現在これらの次世代ゲノムシーケンサをすごい勢いで導入しているのが、欧米と中国で、日本は出遅れ気味。
中国は現在ライフサイエンスの分野にものすごく力を注いでいて、ゲノム解析にも大枚をはたいている。
幻影随想: 中国でヒトゲノム解読
この前も中国人ゲノムの解読をやっていたし、次はパンダだそうな。
1000ゲノムプロジェクトも日本は参加せず欧米と中国で行われるそうで、なんかもやもやした気分になるね。