2007年09月23日

陰謀論に堕ちた生化学者

細胞内共生説の提唱者の一人であるリン・マーギュリス女史が、最近ダークサイドに堕ちたらしい。
ここしばらくの出来事を求めてブログ巡回をしていて、余りの情けなさにorzとなった。
生化学を学んだ者としては、このニュースに触れない訳にはいかんよなあ。

 
 
 
ネタ元はきくちさんのところ。
kikulog : 11th of September
63. kurita — September 14, 2007 @12:35:58

> リン・マーギュリスも陰謀論者になったんですか?

ダークサイドに堕ちた模様。
http://www.patriotsquestion911.com/professors.html#Margulis

シス・マスターにあっさり感化されちゃったみたいですが、免疫がなかったんでしょうか。
歳とってから感染すると何事も重篤になりやすいようで。

9/11陰謀論に関するエントリだが、その中で紹介されている陰謀論者の一人としてマーギュリスの名前が出されている。
コメント欄ではその後も延々と陰謀論者が戯言を書き散らしているが、まともな感性を持つ人間が見たら不快感しか湧かないのでスルーが吉。
911陰謀論者の不勉強さや下衆っぷりを身を以て示してくれたという点では称賛に値するが。
あれを読んで怒りとは別ベクトルで相手の精神構造分析までできるようなら、すでに一流のウォッチャーだ。
というか、あれを曝け出させるきくちさんの手腕と忍耐力に脱帽。

ちなみに、きくちさんのコメントを追っていって提示された資料を読むと、WTCビル崩壊の原因調査で判明した内容に詳しくなれる。


閑話休題。
さて、上記引用部で示されている911に対するマーギュリスの主張を、日本国内の同類陰謀論者が翻訳しているので引用しておこう。
ざっとチェックしてみたが、特に訳に問題はないようだ。
#知らない人のために念のため。リンク先の阿修羅は陰謀論者やトンデモさんの巣窟なのでご注意を。

(全訳)米国政府9・11委員会報告を糾弾するリン・マーギュリス博士の声明 バルセロナより愛を込めて
http://www.patriotsquestion911.com/professors.html#Margulis

リン・マーギュリス博士の当ウエッブ・サイトへ寄せた声明(2007年8月27日)

9・11の悲劇は人間社会の歴史の中で最も成功したそして最も邪な公開の手品でした。私がこの結論に達したのは、デイヴィッド・レイ・グリフィン博士の9・11に関するいくつかのすばらしい本にある研究と明確な著述に触れた結果なのです。私が彼に始めて出会ったのは彼が9・11とは無関係の学術会議で講演したときでした。私はすぐに、彼が知性に満ちた傑出した哲学者・神学者・作家であるとの印象を受けました。彼はこの世界で起こりうるすべてを知ることに対する溢れるような好奇心によって動かされるホワイトヘッド風の学者なのです。

戻る飛行機の中で、そして続く2日の間に、私は9・11に関するグリフィンの最初の著作“The New Pearl Harbor”に読みふけりました。それから始めて私は、彼があのインチキな9・11委員会報告に対してもう少し激しく注文を付けている“The 9/11 Commission Report: Omissions and Distortions”を読み進めました。それは公式説が矛盾しており不完全であり、そして信じがたいものであることへの全面的な根拠を提供するものなのです。

私にとって、デイヴィッド・レイ・グリフィンと彼を支持する批評家達が正しいことは明白です。「新たなパール・ハーバー」たる9・11は、驚くほど緻密に計画され、実行者達の洗練された巨大なネットワークを通して実現されたものでした。それは、アジェンデの暗殺、米西戦争を開始させた(そしてグアム、プエルトリコ、キューバとフィリピンを我国にもたらした)我々自身の船「メイン号」への合衆国による爆破、1930年代のドイツでほとんどの市民的自由の圧殺を正当化するために利用されたドイツ国会議事堂放火事件、そして第2次世界大戦の開始となるポーランド侵入をドイツが正当化するために用いたヒムラー作戦などよりも、ずっと複雑でありはるかに上手に成し遂げられたものでした。

この偽の旗作戦に身の毛もよだつ成果は、アフガニスタンとイラクでの戦争を正当化するために、そして同時に、研究・教育・市民的自由に対する空前絶後の侵害を正当化するために利用され続けているのですが、それをもたらしたことに責任を負う者たち全員が、間違いなくその作業に邪悪な誇りを感じているでしょう。確かに、19名の若いアラブ人と7千マイル離れた場所にいた一人のアラブ人が、その米国に対する怒りがどれほどのものであったとしても、9・11を計画し実行できたはずはありません。それは西側文明の歴史の中で最も効果的なTVコマーシャルだったのです。

私は、これに気付き関心を持つ我が国民に次のことを要求するようにお勧めします。あの紛れも無く誤謬に満ちた9・11公式見解をペテンとして拒否し、新しい完全な、そして公平な調査研究が行われることを。

私もイラク戦争開戦前後にブッシュと米政府のやり方を批判していた一人だ。
だからブッシュ政権が911を最大限にコマーシャルに利用してイラク戦争に突入していったことに対し、彼女等のようなリベラル層が拒絶反応を示すことは理解できる。
#無論今も連中に正義があったなどとは考えてはいない。
#ブッシュ政権のポストフセイン体制のプランがあまりにも杜撰だった点には正直呆れ返った。
#もっとも私の場合、「イラクの国家体制をぶち壊した以上、アメリカ及び日本も含む追従した国家は、イラクの治安維持と国家機能回復に責任がある。そしてその責任の取り方にPKFも含まれる」と考える点でリベラルとは意見が分かれるが。


しかし、戦争を正当化するために911を利用し、大量破壊兵器をでっち上げたブッシュ政権と、
ブッシュ政権をデモナイズするために911を利用し、陰謀論をでっち上げている911陰謀論者達とで一体何が違うというのだろうか?
私には911陰謀論者達の姿が、彼らの批判するブッシュ政権と重なって見える。
いや、自分達がやっていることの意味を理解していない分、陰謀論者達の方がなお醜悪に見える。
マーギュリス女史も、自分の発言内容がどれだけの人間を侮辱しているかなぞ考えもしていないのだろう。

余談だが、陰謀論者達の主張については、ほぼ日刊イトイ新聞で鈴木すずきちさんが連載している記事がお勧め。
2006-09-11 9-11陰謀論 その1
2006-09-12 9-11陰謀論 その2
2006-09-13 9-11陰謀論 その3
2006-10-11 キリスト教原理主義 対 9.11陰謀論 その1
2006-10-17 キリスト教原理主義 対 9.11陰謀論 その2
2006-10-27 キリスト教原理主義 対 9.11陰謀論 その3


もう一点脱力したというか悲しくなったのが、HIV否定論への彼女の傾倒。
これもきくちさんのところのコメント欄で話が出て、忘却からの帰還のKumicitさんがフォローしている。
まあさすがにその辺の否定論者とは一線を画しているが、なんだかなぁなコメントが。
忘却からの帰還: 細胞共生説のLynn Margulis教授 on HIV/AIDS
上記911陰謀論への参加声明とここで紹介されている彼女の主張を読めば、おぼろげながら彼女の政治スタンスとなぜこのようなトンデモに引っ掛かったのかが見えてくる。
University of Minnesotaの生物学の準教授であるPZ Myersのブログ2007年3月12日付のエントリに、Lynn Margulis教授が降臨した。これは、自著Sciencewriters Books -- Luminous Fish - Tales of Science and Loveの宣伝のためのブログツアーの一環だった。そしてコメント欄にて:
<中略>
I have observed that the closer one comes to the study of humans the shoddier the quality of the scientific evidence. Maybe that is one of the reasons that I work with bacteria and protoctists (the eukaryotic microorganisms and their immediate descendants exclusive of plants, animals and fungi). The vast majority of these are harmless to human health.

私は、研究が人間に近いほど、科学的証拠の質が粗悪になるのを見てきた一人である。たぶん、それが理由で、細菌とprotoctists(真核微生物及び、植物と動物と菌類以外の子孫である)を研究対象としている。これらの大半は人間の健康には無害である。

Although I have written about the natural history of the anthrax bacterium, Beethoven's and Nietzsche's syphilis and the work of Hentry Taylor Ricketts with insect-borne pathgens (eg.g, ticks carrying Rocky Mt Spotted fever), in general I avoid the last 3 million years of evolution and any other studies that require detailed knowledge of mammalian, including human, biology. Why? Because political bias, hearsay and gossip are inevitable whereas in the first part of the evolution story (from 3800 until 3 million years ago) politics intervenes far less obtrusively. In pursuit of the story of life and its effects on planet Earth one can be more honest if the earliest atages of evolution are the objects of study.

炭疽菌と、ベートーベンとニーチェの梅毒と、Hentry Taylorリケッチャと昆虫媒介pathogenなどの自然史について書いたことがあるが、おおよそ過去300万年の進化史と人間を含む哺乳類の詳細知識が必要な分野は避けてきた。何故か。政治的バイアスや噂やゴシップが不可避だが、38億年から300万年前の進化史については、おしつけがましい介入はほとんどないからだ。進化の初期段階の研究であれば、生命とその地球への影響についての研究について人は正直たりうるからだ。
<攻略>

さらに、PZ Myers準教授のホストするチャットに登場した[transcript]。そのチャットではHIV/AIDSに言及はなかった。ただ次の書き込み:
[17:51] Would you care to talk about the gaia hypthesis

Dopgenes曰く「ガイア仮説について構いませんか。」

[17:52] No. I believe at all zoologists are intrinsically poorly educated in biology and that medical people are misinformed. This results f rom "field chauvinism". Lovelock aptly calls it "academic apartheid". Probably related to the budget categories and marketers that set them up. See a wonderful book by Steve Dick (NASA historian) and history of science prof. James Strick on the history of Astrobiology..a new category, a wonderful field

Margulis曰く「OKです。私は動物学者が本質的に生物学の素養がなく、医療関係者は誤解していると考えている。これは"盲目的愛国心フィールド"からの帰結である。Lovelockはこれを"アカデミック・アパルトヘイト"と適切に呼んだ。 おそらく、予算カテゴリとマーケターと関連しており、それらが煽るものだ。NASA史研究家Steve Dickのすばらしい本と、科学史のJames Strick教授の宇宙生物学史の本を見てほしい。」

「"盲目的愛国心フィールド"や"アカデミック・アパルトヘイト"によって大多数の動物学者や医療関係者がAIDSの原因を見誤った」とする彼女の思考は、ブッシュ政権憎しで911陰謀論に飛びつく姿勢と完全に同根である。
つまるところ、彼女は自らの政治姿勢について無自覚なのだ。というよりも無警戒すぎると言ったほうがいいだろうか。
自分が政治的に利用されうる存在であることをまるで理解していないコメントのように見える。


彼女の主張のこのくだりが、いつものトンデモさんのように彼女自身へのブーメランとなっているのが哀愁を誘う。
And this way I can lay low and not be "name-called" (i.e., "denialist") because I ask hard questions and require solid evidence before I embrace a particular causal hypothesis. Indeed, is not my attitude of inquiry exactly what science is about?

なので、私はおとなしくしていて、否定論者のような名で呼ばれるものではない。私は難しい問題を問うていて、特定の因果仮説を受け入れるには、確固たる証拠を必要とする。このように問いかける私の態度は、科学的ではないというのだろうか?

少なくとも911陰謀論についてのマーギュリス女史の態度は、到底確固たる証拠に支えられているとも、慎重であるとも言えんわな。


それにしても、疑似科学批判の大家である故カール・セーガンの最初の妻がニセ科学ビリーバーに堕ちるとはね。
もし彼が生きていたら、一体なんとコメントしただろうか。
後のシンビオジェネシスといい、ひょっとすると彼女の「細胞内共生説」も、単に淘汰に対するアンチテーゼで「共生」を主張したら、たまたま当たっていただけなんじゃないかと思えてきた…orz
シンビオジェネシス - Wikipedia
生物学者リン・マーギュリスは自著 Acquiring Genomes: A Theory of the Origins of Species で、シンビオジェネシスが進化を推進する力となっていると主張した。彼女の理論によれば、無作為な突然変異だけでは現実の進化の方向性を説明できず、シンビオジェネシスによる細胞小器官、身体、器官、種の形成が必要であるとされた。古典的進化論の後継理論(ネオダーウィニズム)が進化の推進力として「競争」を強調するのに対して、マーギュリスは「協力」を強調した。

この記事へのコメント
  1. 幻滅したとしか言えないですね。もうがっかり。
  2. Posted by もちまさ at 2007年09月23日 20:58
  3. トラックバックありがとうございます。
    マーギュリスに関してはKumicitさんが指摘していた「豪快な仮説を好む」という表現に納得しました。豪快すぎて一発場外ホームラン以外は軒並み三振なのかもしれないと思っておりますが。
  4. Posted by R/D at 2007年09月23日 20:59
  5. 進化論関係では以前より結構あやういことを仰っておられた方なので、意外だとは思いません。フレッド=ホイルや、ライナス=ポーリングと同じように、科学の世界では一定の割合でこういう人も必要なのでしょう。
  6. Posted by NATROM at 2007年09月25日 17:16
  7. キクチ先生のとこにもコメさせてもらいましたが。

    イラク戦争は結局停戦条約を遵守しない国家をどうすべきかという問題です。これはベルサイユ条約を守らないドイツをどうしたら良かったのか?という問題でもあり、また日本人にとっては北朝鮮(中国)に共通することです。
    つまり過去に侵略戦争を行いまたあまりに非道な統治を行う者に対し我々は何らかのアクションをすべきでないかという課題ですね。いわゆる旧来型のリベラルはこれに目を閉じ、アメリカを非難しますが、一方でベトナムがポルポトをブノンペンから追い出した時はむしろこれを歓迎したことを忘れてはならないでしょう。

    リベラルというのは命より自由が大事と思う人たちでしょう。そしてそういった人々が当事者意識を失いリアリティを欠けばトンデモになるのはある種必然だと思います。
  8. Posted by SLEEP at 2007年09月29日 00:43
  9. あなたもまた、誠実なことを述べる人々の言葉を無心に聞くことをしない人なのだな。
    あなたが興味あるのはすでに世俗的となってしまっている、流布して陳腐になってしまっている説を後追いすることだけだ。
    そうしていれば傷がつかないことを学校などで長い間に学ぶ機会があった。誰かを罵倒していれば自分は安全だと。

    リンさんは違う方の人だ。
    リン・マーギュリスさんがなぜそう考えたか、彼女自身によって根拠が示されている。反論することができる。
    ダークサイドという言葉を使うならば、自らに光が当たらないよう、隠れている人々に使うのが適当ではないか。
    そしてあなたもまた自らが気付かれないよう、うまく立ち回れるように、自分の考えを隠すために、人々を罵倒する言葉をふりまいているように見えるよ。
    リン・マーギュリスさんの研究を表面的でもいいから読んでみたら。こんだけ礼を失したことを言うなら、忙しいとかいうなよ。


  10. Posted by オキクルミ at 2009年07月07日 16:28
  11. あなたは疑似科学をとても批判したいようだね。
    つまりとても気になっているんだね。
    あなたが疑似科学をとても気になる理由は考えたことがあるかな。自分の内側に向けて何か問いを発してみることもよいものだ。

    本当は世間に流布している偽りの知識を科学と呼んでいることをあなたは知っているのではないだろうか。もっと自由に感じとったままに受け取ったままに表現したい自分がいる。偽りを嫌がっている本当の自分がいるのではないだろうか。
    だからこそ世俗ではなく自分の真実に基づいて生き始めた人を見るととても腹が立つのだ。
    そんな人にたいしてあなたは内側でこう言う。「なぜ、あなたは抑圧しないのだ?私がこんなに、抑圧しているのに…」
    泣きたいほど抑圧し、権威的な知識に隷従しているというのに!

    自分が押さえつけていることを自由に表現する人を見ると、人はどうしてこうも腹が立つのだろう。そこであなたは主流派のオーソリティーをまとってやっつけにかかるのだ。
    それによって誰かを喜ばせるために。
    しかし喜ぶ人は実はあなたが言うような一般の人々ではない。真実を求めている人々ではない。喜ぶのは、真実が明白になっていくことを望んでいない人々だ。

    この言葉もまた腹が立つだろうか。自分の内側を見てほしい。体がとりかえしがつかないほど悪くなる前に。



  12. Posted by オキクルミ at 2009年07月08日 12:26
  13. >あなたもまた、誠実なことを述べる人々の言葉を無心に聞くことをしない人なのだな。

    誠実な人間というものは、自己の発言についてもっと慎重になるものだよ。


    >権威的な知識に隷従しているというのに!

    権威?
    長年に亘って実践され実績もある理論を捨てて、個人の思いつきに頼るの?
    それで南アフリカのようになるのがお望みですか?


  14. Posted by Pz-4 at 2009年07月08日 22:50
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Tracked: 2007-10-01 22:20