同時期には三井情報開発傘下のXanagenも解散しており、この二件のニュースはバイオインフォ業界の伸び悩みを象徴付けるものと業界では受け止められました。
出だしからして暗い話ですが、この上さらにバイオインフォ業界は、近い将来に必ず爆発する時限爆弾を抱えていたりもします。
#といっても爆発の影響を受けるのは就職希望の学生ですが
バイオインフォマティクス系の学生さんには、将来に関わってくる問題なので、是非続きを読んでください。
バイオインフォ業界が抱える問題とは、タイトルにもあるようにずばり人余りです。
これはバイオ業界が抱える問題でもあるのですが…
とりあえずまず問題の背景から説明します。
◆問題の背景
2002年、国はバイオテクノロジー戦略大綱を策定して、これから先10年で発展する重点分野としてバイオに力を注ぐ事を宣言しました。
簡単に必要な部分だけ引用しますが、こんなことが書いてありますね。
BT戦略会議-バイオテクノロジー戦略大綱
(2) BTは、良質な新規産業と新規雇用を創出する
我が国の2001年(平成13年)におけるBT関連産業の市場規模は1.3兆円と推計されている。2010年(平成22年)においては、それが25兆円程度に成長することを展望して環境整備を目指すこととされており、今後大幅な市場拡大が期待される。また、世界に目を転ずると、現在の市場規模で、米国3兆円強、欧州2兆円弱と見込まれ、2005年(平成18年)の時点で欧州は12兆円、2010年の時点で世界全体は230兆円、2025年(平成38年)の時点で米国は300兆円市場に成長するとの予測もある。☆
また、BTに関連した新規雇用効果として、2010年までに100万人超が期待され(現状(平成11年実績推計)6.9万人)、さらに、非バイオ産業への雇用誘発効果として60万人超が期待される。☆
BT関連産業は知識集約型かつ省資源型の産業であり、また高度な技術の集積のある国でこそ発展できる産業である。さらに、高付加価値型の産業であり、高収入の雇用も期待できる。それは、技術立国を目指す日本の将来像に実に適合した産業である。
バイオ業界の現状を知るものにとっては夢物語としか言いようがない内容ですが、当時はバイオ業界の将来に過大な期待が寄せられており、今から思えば無謀すぎる未来予想図が国家の舵取りで描かれてしまったのです。
そしてこれが諸悪の根源になりました。
現実にはこの未来予想図のような爆発的成長など起きず、2006年度のBT関連産業の市場規模も2兆円を少し上回る程度です。しかしバイオ戦略大綱の未来予想図にあわせ、2000年頃からのバイオバブルの余波も受けて各地の大学にバイオ関連の学部、学科が乱立されました。
25兆円産業を支えるべく大学が送り出す人材を2兆円産業が受け止めようとするとどうなるか?
無論受け止めきれずにあふれ出す事になります。
バイオ戦略大綱は現在バイオ業界で起きている人余りやポスドク問題の一因ともいえます。
2005年頃には既にバイオ戦略大綱がこけたことは明白だったのに、国も大学も今もって軌道修正をしようとしません。
とりあえず国は2010年にバイオ産業25兆円市場という夢物語をとっとと引っ込めて欲しいです。
sivadさん@赤の女王とお茶をが少し前に言っていましたが、大学側も、受け皿に急成長が見込めない以上供給は絞られるべきだと思うのですよ。
◆バイオインフォマティクス業界の新卒採用は今後激戦区になる
まあバイオ業界そのものはいろんな人が既に警鐘を鳴らしているのでまだいいのですが、バイオインフォマティクス業界はこのまま行くとさらに深刻な人余りに突入することが確実なので、ちょっと警告しておきます。
現在各地の大学に作られているバイオインフォマティクスの学科ですが、このまま行くと近い将来毎年数百人の卒業生が出てくる事態が起きます。
一方バイオインフォマティクス業界は小さな業界なので、受け皿はせいぜい一年に数十人です。
分かりやすく言うと、現在バイオインフォマティクス系の学科に通っている学生さんのうち、民間のバイオインフォマティクス企業に就職できる人間は1割程度しかいないという事です。
まだバイオインフォ系学科の卒業生が出てこない今でさえ、ウェット系のバイオから人が流れてくるため買い手市場になっているバイオインフォ業界の新卒採用事情ですが、来年あたりからはさらに厳しい事になると予想しています。
この分野を志す人にとっては厳しい内容ですが、現在バイオインフォマティクス系の学科に通っている人は、ちょっとまじめに将来のことを考えておいた方がいいです。
あくまでバイオインフォを目指すならアカデミックな方向に行くか、民間企業を目指すなら資格でも取って少しでも自分を高く売り込めるようにすることをお勧めします。
あるいは、まったく別の道を選ぶというのも一つの選択肢です。
#BICERTもこの前廃止になっちゃったんですよねえ。受けようかどうしようかと考えていた矢先だったのに。
ただこの現状、企業側から見たらそう悪い事でもないんですよね。
優秀な学生をよりどりみどりに出来るわけだから。
その一方でIT業界全体で見たら売り手市場なので、バイオ以外の事業もやっている会社だと、大学でバイオをやっていた人が大勢入ってきてバイオ以外の部署に回されるということが最近良く起きています。
私の会社でも今年はバイオ系の新人がかなり入って来て、大部分がバイオ以外の部署に回されていました。
来年以降この傾向がさらに強まるんだろうなぁ。
受け皿を増やせれば一番なんだけれど、中々そうも行かないし。
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・幻影随想: BioInformaticianを目指す人の為に〜1.方向性を決めよう〜
・幻影随想: BioInformaticianを目指す人の為に〜2.バイオインフォマティクス主要企業一覧〜
私が院生をしていた十数年前でも、バイオ関係の専門学校を出ても技術を活かせる人はごく僅か(その学年に1人居るか居ないか)だったし、東大が工業化学合成化学専攻の名前を変えて生命何チャラになったら、東大修士課程男子院生(つまり企業就職の最強カードを全部揃えているような人ですね)が就職活動のため企業に電話して、専攻名を名乗ったとたん「バイオは要りません」と言われてしまい、「実は実体は工化合成でして」と説明しないと話もきいてくれないという状態でしたから。これが、バイオバブルの走りの頃の話です。
私はバイオバブルの頃にちょうど学生だった世代なのであまり実感がないのですが、確かに当時に較べれば今は随分良くなったのでしょうね。
>ただ、確かに、供給は絞るべきですよね。でも、それを言うならバイオinfoだけではなく、バイオ関連学部全てにおいてでしょう。
これは仰るとおりかと。まあバブルもすっかりさめたので、いずれは適正水準に落ち着くでしょう。
お返事が遅くなって申し訳ありません。
>マスコミで言われてるほど、バイオ業界が活気づいていない
>バイオ業界の実体は、やはりおっしゃる通りだったんですね。
そうですね。
バイオ業界そのものは着実に成長しているのですが、大躍進を見込んで当てが外れた企業があちこちに転がっています。
2004年ごろにはそれが明らかになっていたので、ここ1〜2年で事業計画の見直しを行っている会社が多いです。
今後は身の丈に合った成長になると思うのですが、人余りだけは当分解消しそうにないと思います。