この記事の中に、何と「波動」を道徳教育に組み入れちゃった小学校の先生の話が出てきます。
さらに困ったことに、この授業がTOSSという教師間の教材共有ネットワークを介して大規模に広まってしまっています。
問題の発端は「波動」の仕掛け人が書いた「水からの伝言」という一冊の本。
上記「ニセ科学入門」から引用。
「水からの伝言」は江本らが独自の手法で作った水の結晶の写真を集めたもので、本を開くと美しい結晶の写真が次々と目にはいってくる。ところが、美しいだけならいいのだが、ここには驚くべき話が書かれている。たとえば、水に「ありがとう」という言葉を見せたのち(水をいれたビンに文字を印刷した紙を貼って、文字通り”見せる”)、その水で結晶を作ると水はきれいな結晶を作り、一方、「死ね」などの言葉を見せた水はきれいな結晶を作らないというのである。もちろん「平和」は美しい結晶を作り、「戦争」は作らないなど、言葉と結晶のあいだには一定の(実にわかりやすい)関係がある。
さて、この本がどのように道徳教育に使われているか、実際にその教材の一例をご覧下さい。
・〜水からの伝言〜水が伝えるもの〜
・よい言葉と笑顔にはパワーがある!−水からの伝言−
・文字の持つ力
中身の抜粋
<発問> 「ありがとう」と書いた紙の上に、水を一晩おいて凍らせたら、氷の結晶はどうなるでしょう。
○水になる、普通に凍る、何もおきない、ありがとうの 字が浮き出る、普通より大きくなった、など。
<説明> とってもきれいに水の結晶ができました。(写真を見せる。)
<発問> 「ばかやろう」と書いた紙の上に、水を一晩おいて凍らせたら、氷の結晶はどうなるでしょう。
○そのまま、形が崩れた結晶になる、すごくきたない結晶になる、黒やあい色などの暗い色になる、紙が破ける、うるせえと字が出る、など。
<発問・指示> 「ばかやろう」の方は、結晶が崩れてしまいました。文字にでさえこのようなエネルギーがあるのです。悪口や人を憎むことなどならもっと悪いエネルギーがあると思います。
※他にもいくつか別の言葉についての氷の結晶を紹介する。(愛・感謝、むかつく・殺す、天使、悪魔、ヒトラーなど)
愛・感謝、天使、は非常に美しい結晶ができ、むかつく・殺す、悪魔、ヒトラーなどは、かなり結晶が崩れていた。
いやもうスゴすぎて言葉になりません。一読するだけでも悶絶しそうな内容が並んでいます。
学校の授業で疑似科学を事実として教わればそりゃ波動だのマイナスイオンだのにも引っ掛かるわな。
というかこれ教師失格だろ…
何とか自分を正当化しようと必死になっているだけ。
@水が言葉によって異なる結晶を作るというのは、事実か。
全く同じ水の結晶を再現できない。
諸条件が複雑にからみ、今の科学では無理とされている。
江本氏は、どうやって結晶を選んだか。
50のシャーレに氷結結晶をつくって、8つのパターンに分け、そこから「特徴的な結晶を一つ選んで」撮影している。
「最も数の多いパターンから選んでいる」のではない。
<中略>
A言葉によってできる結晶が異なる。その事実を裏付ける科学的根拠はあるのか。
江本氏は、これについても自身で記している。
結論は「写真や言葉には固有の波動がある。」である。
波動のキーワードは、「振動」「共鳴」「相似象」。
波動の原理に共鳴する識者も多い。
ただ、波動の理論は、世の中の事象を説明しうる理論になっているが、
科学的実証が難しい。
現代の科学で実証できないものがすべて嘘かというとそうはいえない。
船井幸雄氏の『百匹目の猿・「思い」が世界を変える』
春山茂夫氏の『脳内革命』は、意志・意識・念などをエネルギーとしてとらえる。
『脳内革命』以降、アドレナリン、ドーパミンなどの脳内分泌物質が
人間の言動を説明するキーワードにまでなっている。
文字の持つエネルギー
生徒の感想を読んで更にゆううつな気持ちに。
・結晶でさえ、プラス・マイナスがわかるのに、なんで世の中には、わからないで人を殺したりする人がいるのだろう。「やってみたかった」それだけの理由で、人を殺すのはよくないと思う。そういう人には絶対なりたくない。これからは、悪口に気をつけたい。
・結晶は、ちゃんといいことか?悪いことか?が判断できて、悪いことばかりしている人間よりすごく素晴らしい。つくづく悪いことはいけないと思う。悪い言葉の上でできた結晶はかわいそうだ。 一言、強く思ったこと。「結晶って素晴らしい!」
・バカとか言われるといやになるけど、字も悪口を書いたりしたら、汚い結晶ができたり、「ありがとう」などいいことを書くと、きれいな結晶などできて、水にもわかるのかな、と思った。
・今日の勉強で悪口が人の心をすごく傷つけていることや、良い言葉は人の心を明るく楽しくしていることがわかった。
・言葉だけではなく、字も悪いパワーがあるんだなと思う。水の結晶はすごくきれいだった。(すごくきたないのもあった) すごく不思議だった。
・言葉にも力があって、そういうので、水の結晶がきたなくなったり、きれいになったりするのは、すごいと思った。プラス思考は、すごいんだな一と思った。
・これからは、相手がうれしくなるような言葉を言いたいです。それと夏休みの自由研究で氷の結晶を作りたいです。
・今日、この授業をして、天使とかバカとかって書いた紙の上に水をたらして一晩凍らせたら、きたない結晶とか、きれいな結晶ができたのでびっくりした。水とかにも、いいものと悪いものがわかるんだなあと思いました。
文字の持つ力
この教材の問題点は3つあります。
1.根拠もないデタラメを子供に事実として教えていること。
2.デタラメを教えられた子供達が将来疑似科学や詐欺に引っ掛かる危険性をもたらすこと。
3.TOSSでこんなインチキ教材が広まるほど科学的素養のない教師が大量に存在する事
いくら道徳の授業の例え話であろうと事実無根のデタラメを子供に教えていいはずがないし、教育者がこのような似非科学をまともに取り扱うこと自体本来あってはならないことです。
このような似非科学を安易に教材に取り込もうとする教師が多いという事実に暗澹たる気分になります。
上に挙げたサイトの一つなどゲーム脳にすら引っかかっているし。
・ゲームのし過ぎで脳が壊れる!〜ゲーム脳の恐怖〜
この一件で情報を探していて見つけたサイトの意見が非常に優れていると思ったので
引用して締めることにする。
学校の先生が「水が人間の言葉や気持ちを理解して結晶の形を変える」などと生徒に向かって授業したら,中には,水が言葉や気持ちを理解すると本気で信じる生徒が出てきて,ゆくゆくは詐欺の被害者や加害者を増やす結果になる。実際,「水が情報を記憶する」という考え方が「水に健康な細胞の情報を記憶させることができる」に発展し,そのような波動を水にコピーするという装置を高額で売り付けるという悪徳商法が行われている。体調が悪かったり難病にかかっている人に対して怪しげな足裏診断をやって,「この装置で作った水を飲むと健康になれる」「難病に苦しんで、ワラをも束みたい人に、この商品を販売したい。健康な人には効果がない。」と言って商売をしている。この詐欺にあやうく騙されかかった方が私にメールで問いあわせてこられ,「水が情報を記憶することはない」とアドバイスして,どうにか解約・返品にこぎ着けたということもあった(その後,その方は,「悪徳商法被害の対処方法」というウェブサイトを作られた)。
学校教育の目的の1つは,社会に出たときに,このような怪しい話を信じて騙されたり,人を騙したりすることを防ぐための基礎となる知識を身につけさせることではないのか。水が情報を記憶するといった誤った知識を生徒に植え付けることは,まともな科学知識を身につける上で害をもたらすだけだろう。原子・分子が新指導要領から抜かれてしまった現在では,生徒はさらに被害を受けるだろう。ただしい科学的知識を身につけるという点から,この内容を使って道徳教育をすることは適切ではない。たとえ,道徳と理科は別の科目であり,道徳では「たとえ話」が有効だとしても,限度というものがある。
「TOSSランド」(教育技術法則化運動)へのコメント:水商売ウォッチング
何を目的にした授業なのかがわかりませんが
もし、科学を教えようとするなら 間違いですね
そもそも、教える教師が 科学、哲学、宗教
の境界線を理解していないと思えます。
そこから 始めないとダメなんですかねぇー
いまどきは・・・ ーー;
で、わが子がこんなことを習っているのを聞いて親たちは殴り込まないんでしょうか(笑)
科学通を自称する上司が引っかかってました。最近は言わなくなりましたが、まだ信じてそうです。
正直、TOSSがこういう事をやるというのを聞いても驚かないというか、激しく納得、ってなトコでしょうか。あー、あいつらならこんなもんだろう、と。
なんというか、技術立国しか道のないこの国で、科学教育がこの惨状、ってのはホントに先が思いやられます。
・・・変というベクトルが科学オタクな方面に向いていただけかも知れませんが。
それにしても、正気かと疑いたくなりますが。
道徳を教えるために疑似科学を使っては別の問題を生むだけですよね。
>Fumさん
実際文章を読んでいて、悶絶のあまり二度ほど深呼吸しに廊下まで出る羽目に…
この手の授業の問題に気づくだけの教養を持ち、
さらに抗議できるだけのバイタリティを持つ親というのはかなり稀有な気がしますね。
残念なことですが。
>cbzさん
>科学通を自称する上司が引っかかってました。
それは最早科学通を自称できませんね(笑)
>Indigoさん
小学校教師は大抵理系じゃない(教育学部)ですもんね。
中高(理系学部教師)でどこまで矯正できるかと考えても、
単に教科書どおりの授業を受けるだけでは知識の修正がなされないままに終わりそうな気がします。
>佐倉河さん
何とうらやましい…
>| 冫、)ジーさん
一人の教師が全てを教える小学校の体制は無理があるのかも知れませんね。
これではとても安心して子ども育てられる環境ではないですね。
こりゃまた、衝撃ですね。これは教育でなく単なるオカルト(笑)。
「ごめん」と訂正するのは勇気がいることですが、私は全然OK。それよりも間違った知識を持って卒業していかれる方がよほど恐ろしいと思うんですけど。
・・・ただし周りを見渡すと、どんなに誤っても認めない方も、実際居ますね〜。日々気を付けて謙虚に行きたいです。
学校とはかなりたたかいました。わたしは文系出身の一介の兼業主婦(決してキャリア系の女性ではない)ですが、これが「おかしい」ということくらいはわかります。科学的素養なんていりません。
ちなみにこの授業やった担任は「理科」の先生で、次の年に管理職になりました…
学校とのやりとりを書いてみましたので、よろしかったらどうぞ…
これを授業にしている方は、本当にそうであるかないかではなくて、その内容を言っている人がいるかいないかを判断材料にしているのではないでしょうか。なんにせよ困ったものです。
「2つの鉢植え植物を用意して、片方には『よい言葉・ほめる言葉』をかけ、他方には『悪い言葉・けなす言葉』をかけて、日々の生育状況を調べる」という内容でした。
(水の結晶と違って)植物は生物ですから、音波の受容機関であったり知性・心性のようなものがあるのかな? という思いで長期実験に参加してましたが、後日学校参観にきた母親に「ほめる鉢だけ窓際に置いてあるんだね」と言われ、そうだったのかと“サンタクロースの喪失”に似た感慨をもった覚えがあります。
他にも「農薬を使わない野菜はこんなに甘い」的な授業(LHR?家庭科?)を実施し、生徒にニンジンを生で食べさせたりしていたその担任は、3月私たちの卒業と同時に学校を辞めました(辞めさせられたのではないと思いたい)。後に風の噂で、農業系某宗教団体に入信したと聞いて全ての得心がいった次第です。
近年でもテレビの健康系科学番組の『実証』『実験』を見るたびに、この種の似非科学・ニセ科学がいまだ蔓延しているのを目にします。簡単にだまされてしまうのは小学生だけじゃないんだな、と自戒を込めて。
しかし、そのまえに・・・
その話を下支えしている理論を確認しましょう。
信憑性があるなら、まともな論文の一つもあるはずです。
良識のある先生は自分の過ちに気づいてHPを閉じられた先生もいるようですが、
いくつかのページはそのまま残っているようです。
私は就学前の子供を持つ身として、安心して子供を預けられる学校を探しています。
恐ろしくなりました。
一昔前であれば、似非科学で一蹴されるような内容が授業にまで使われているとは。
この手の問題は水伝だけに限らないので、結局のところ自分で子供に教えられるだけの知識を持って自衛するしかないのかなあと最近考えております。
後は、大都市圏にお住まいならおそらくどこかでサイエンス教室が開かれていると思いますので、親子でこういった催しに参加されてみるというのもいかがでしょう?
子供の科学教育にはお勧めですよ。