2007年05月07日

バーチャルマウスは電気チーズの夢を見るか?

プラナリアみたいな単純な生物ならともかく、哺乳類の複雑な脳をまるごとスパコンでシミュレートするという試みは、これがはじめてじゃなかろうか?
部分的なシミュレーションなら結構あるんだが。
BBCの記事が比較的よくまとまってたので紹介。
BBC NEWS | Technology | Mouse brain simulated on computer
US researchers have simulated half a virtual mouse brain on a supercomputer.
The scientists ran a "cortical simulator" that was as big and as complex as half of a mouse brain on the BlueGene L supercomputer.

In other smaller simulations the researchers say they have seen characteristics of thought patterns observed in real mouse brains.

Now the team is tuning the simulation to make it run faster and to make it more like a real mouse brain.

計算機科学の進展速度を考えれば、あと10年もすれば確実にヒトの脳のシミュレーションが可能になる。
そのうち電人ハルみたいなのが出て来るんだろーか?
シミュレートされた脳味噌に自我は存在するのかとか、生物的な制約から解き放たれた電子頭脳は潜在的にヒト以上の可能性を持つんじゃないかとか、興味と妄想は尽きない。

高等動物の脳味噌がもうちょっと低コストでシミュレート可能になれば、ニューラルネットワーク系統の研究が飛躍的に進むことが予想される。
問題はシミュレーションの精度とコストで、精度は今後の向上を待てばいいとしても、スパコン丸ごと使ってもネズミの脳味噌の半分しかシミュレートできないというのは、コスト的にかなりつらい。
後10年くらい経てばようやく普通の研究者にも何とか手に届くコストでシミュレーションできるようになるくらいか。
一介のバイオインフォマティシャンとしても、このシミュレーションの成果には色々と期待している。



テクノバーンにも関連記事が出ていたのでついでにリンク。
Technobahn サイエンス : IBM研究所、スーパーコンピューターでネズミの脳活動の再現に成功
IBMアルマデン研究所のラジャゴパル・アナンサナラヤナン博士と米アリゾナ大学のジェームズ・フライ博士などを中心とする研究グループは、ネズミの思考を司る大脳皮質の構造を詳しく研究。その上で、独自のリアルタイム・ネズミ大脳皮質シミュレーション(Real-Time Mouse-Scale Cortical Simulations)というシミュレーション・モデルを用いることで、スーパーコンピューター内の1TBのメモリー空間に800万ニューロン、 1ニューロンあたり6300シナプスで構成されたネズミの大脳皮質を再現し、ニューロンによるスパークスをシミュレートすることに成功した。
posted by 黒影 at 22:25 | Comment(9) | TrackBack(0) | サイエンスニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 全くの専門外ですが,ちょっと疑問です。このシュミレータに疑似もしくは本物の手とか足とか顔をつければ,鼠らしく動きそうな気がしますが,そうではない場合,計算機の中身を流れるデータだけを見て,おお、こいつは今チーズの夢を見ているとか言う風には,(まだ)なんないんじゃないですか。SF映画によくある頭に電極(か、なんか知りませんが)を刺して考えていることが映像として出てくるやつみたいには。
  2. Posted by txm at 2007年05月08日 04:10
  3. まあ、神経インパルスの創発的な自己組織化が脳内で観測されてるものに似てるとかなんとか言って喜んでるレベルなんでしょうけどね。
    それでも、(私が生きてる間くらいの)近い将来、脳のエミュレータとかできちゃって、
    それでもって、自分の脳をスキャンしてもらってネットワーク上に自分のコピーが…なんて時代が来ちゃったりして♪
    などと、もーそーを喚起するに十分なニュースでした
  4. Posted by Cru at 2007年05月08日 22:39
  5. >txmさん
    そうですね。実際のところ、入出力系がもうちょっと発展して、人間が無意識のうちに処理している情報量のレベルに到達しないと次のブレークスルーは無いと思います。
    まだ今はまっさらな脳味噌をシミュレートしている段階ですから。

    >Cruさん
    >神経インパルスの創発的な自己組織化が脳内で観測されてるものに似てるとかなんとか言って喜んでるレベル
    私もあまり詳しくありませんが、一応この辺のレベルは10年20年前に通過済みだったかと。

    >もーそーを喚起するに十分なニュースでした
    SF好きにはそれがたまらないのです。
  6. Posted by 黒影 at 2007年05月09日 22:42
  7. >一応この辺のレベル
    そうですか。そりゃ、そうでしょうね。言われてみれば。確かに昔聞いた話だ(笑

    しかし、まだ脳内の解剖学的な構造は欠いてる様ですね。
    にもかかわらず、半分の大きさをシミュレートしたということは、その先にハードワイヤードなモデルを走らせる目標があるのかしらん。
    例えば一次視覚野とか洞毛に対応した体性感覚野のバレル構造とか、海馬の投射構造とか…しかし、すべてが既知というわけでもないような。
    ソフトウェア的にも(現実にはハードワイヤードな初期条件が未知なわけで、仮説を実証していく作業になりそうな気がしますが)ミンスキーなモジュール脳にするんかいなとか。逆に、意図してなかったのにモジュール脳的な動作をして嬉しいとかいう結果を狙ってるとか。
    あと、コリン作動性神経とか、伝達物質量で大まかに制御される各投射系のシミュとか。
    とかとか――と、またもーそー(笑)。
    詳報がほしいなあ。

    #しかし、ネットワーク上の自分のコピーの気分とか衝動が伝達物質のシミュで自在に制御できたりすると想像するのはちょっと嫌^^;
    (グレッグ・イーガンの『しあわせの理由』は面白かった! 黒影さんはイーガンとか読みますか?)
    …というか、そんな時代が来るかどうかはわかりませんが、コンピュータ上で生きる「人間」の文化は、年月がたてば、生身の人間のそれからは遠く離れていくんでしょうねえ。なんでもありなんだから。
  8. Posted by Cru at 2007年05月10日 21:46
  9. http://p9.hostingprod.com/@modha.org/blog/2007/02/towards_realtime_mousescale_co.html
    ここにPDFで1pageのリポートがありますが、この規模のシミュレーションを実現したノウハウ自体が成果のようですね。
  10. Posted by Cru at 2007年05月10日 22:34
  11. >Cruさん
    あちこちの記事に目を通した上での私見ですが、このプロジェクト自体はハードワイヤードな方向には行かないのではないかと思います。
    ハードワイヤードな研究はまだ相当単純な系でやってるので、一足飛びに哺乳類の脳に向かうには足りないものが相当あるはずですから。
    でも哺乳類の脳レベルでハードワイヤードな実験が出来るようになったら面白いでしょうねえ。
    私は視覚処理系周辺に特に興味があります。
    高等動物脳の空間認識能力や物体認識、動作予測をシミュレートできたらなあと。

    >黒影さんはイーガンとか読みますか?
    イーガンは順列都市とか宇宙消失くらいで、最近のは読んだ事がないです。
    しあわせの理由も今度読んでみますね。
  12. Posted by 黒影 at 2007年05月11日 01:23
  13. 昔々、小脳モデルといわれるパーセプトロンとか、一次視覚野を模したと思われるコグニトロンとかニューロなコンピュータモデルで画像認識する研究があって、文字認識とか、それなりの成果もあったようですが、最近はどうなんでしょうか。
    今、ケータイカメラにまで入ってる顔検出アルゴリズムというのがありますが、多分2002年くらいに割と大きなブレークスルーがあって、顔画像のような大量の教師データを統計的に処理することで検出用データを構成、そのデータを使って画像を高速にスキャンして画像中の顔領域を検出するというもの。VGA程度の画像でも、その中から正方形領域を切り出すと百万を越える領域が切り出せますが、それらの無数の領域から数個の顔領域矩形を数十分の一秒で検出できるというのでちょっとしたブームみたいです。車載カメラに写った車の検出とかにも使える。
    この方式はネオ・コグニトロンとかのニューロな仕組みと違って顔輪郭とか瞳領域とか一切検出しないで濃淡情報のベイズ尤度だけで顔を見つけてしまいます。おそらく人間の視覚情報処理とは似ても似つかない。
    逆に言えば、視覚情報処理ひとつをとってもまだまだ謎な部分が多くて、コンピュータによる画像処理などの応用には降りてこないって事なのかなあと思ってみたり。まあ、ケータイのCPUなどは脳のような並列処理は苦手というか不可能なわけですが。
  14. Posted by Cru at 2007年05月12日 00:04
  15. イーガンは短編も面白いですよお。というか、短編のほうがテーマが絞り込まれてて面白い気がします。「しあわせの理由」は脳の報酬系がいろいろアレでミモフタモナく不条理に幸福だったり不幸だったりする男のお話w 将来、ネットワーク上に棲むようになったときの予備知識に是非w
  16. Posted by Cru at 2007年05月12日 00:25
  17. >Cruさん
    私の会社でも別部署で顔検出アルゴリズムを使ってますが、そのアルゴリズムは初めて知りました。
    脳と計算機では情報の処理方法が根本的に異なっているので、ニューロモデルを構築してそこで動くアルゴリズムを考えるより、初めから計算機向きにアルゴリズムを組み立てた方が早いんでしょうね。

    >イーガンは短編も面白いですよお。
    ほほう。短編ものはあまり読まないのですが、楽しみにしています。
  18. Posted by 黒影 at 2007年05月12日 14:30
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