生物学のテキストとしては、おそらく現在最高峰と言えるでしょう。
私も早速一冊購入しました。
Amazon.co.jp: キャンベル生物学
本書は、海外で大学レベルの生物学教科書としてよく使用されている"Campbell Biology 7th Edition"の邦訳です。
私は大学で生物工学を専攻していたので、買わされこそしなかったもののたまに原書が参考文献として指定される事がありました。
そのころは主に図書館で借りて読む程度だったのですが、海外でスタンダード扱いされるだけあって生物学の全てを扱っていると言っても過言でない内容です。
生態学・動植物学というマクロな視点から、生化学・分子生物学のミクロな視点まで、そして全てのバックボーンとなる進化生物学、最新のバイオテクノロジーの成果に至るまで、本書は幅広い内容をカバーしています。
何度も版を重ねているだけあって、文章も図表も非常に分かりやすいものになっているのが高ポイントですね。
少々値段が張りますが、生物学に関わる仕事に就いている人間なら買って損は無いでしょう。
図表が非常に優れているので、それだけを目当てに買うと言うのもありですね。
少なくとも私は今、手元にある本書の内容に満足しています。
本書の目次もついでに載せておきます。
◆要約目次 From 丸善
1 生命の探求第1部 生命の化学
2 生命の化学的基礎
3 水と環境の適合
4 炭素と生命の分子の多様性
5 高分子の構造と機能第2部 細胞
6 細胞の旅
7 膜の構造と機能
8 代謝(導入編)
9 細胞呼吸: 化学エネルギーの獲得
10 光合成
11 細胞の情報連絡
12 細胞周期第3部 遺伝学
13 減数分裂と有性生活環
14 メンデルと遺伝子の概念
15 染色体の挙動と遺伝
16 遺伝の分子機構
17 遺伝子からタンパク質へ
18 ウイルスと細菌の遺伝学
19 真核生物ゲノムの構造・調節・進化
20 DNAテクノロジーとゲノム科学
21 発生の遺伝的基礎第4部 進化のメカニズム
22 進化:ダーウイン的生命観
23 集団の進化
24 種の起源
25 系統学と体系学第5部 生物多様性の進化的歴史
26 生物の樹: 多様性生物入門
27 原核生物
28 原生生物
29 植物の多様性I: 植物は地上にどのように群れるか
30 植物の多様性II
31 菌類
32 動物の多様性
33 無脊椎動物
34 脊椎動物第6部 植物の形態と機能
35 植物の構造,成長,分化
36 維管束植物の輸送
37 植物の栄養
38 被子植物の生殖とバイオテクノロジー
39 内的外的シグナルに対する植物の応答第7部 動物の形態と機能
40 動物の形態と機能の基本原理
41 動物の栄養
42 循環とガス交換
43 免疫系
44 浸透調節と排出
45 ホルモンと内分泌系
46 動物の生殖
47 動物の発生
48 神経系
49 感覚と運動メカニズム第8部 生態学
50 生態学と生物圏への入門
51 行動生態学
52 個体群生態学
53 群集生態学
54 生態系
55 保全生物学と復元生態学
付録 A 解答
付録 B 単位換算
付録 C 光学顕微鏡と電子顕微鏡の構造
付録 D 生物の分類
用語解説
索引
以下Amazonのレビューでは書ききれない事を。
私が本書の内容で特にうれしく感じたのは、進化の扱いについてです。
本書では進化関連の説明に全8部のうちの2部を割き、かなりの分量の記述が行われています。
これがどれだけ破格の扱いなのかは、高校の生物の教科書を見れば分かりやすいでしょう。
私が常々高校の生物教育に不満を持っている点に、進化の扱いが軽すぎるというのがあります。
下に挙げた例を見てもらえば分かるように、現在の高校生物の教科書に「進化」という大項目は存在しません。
かろうじて生物IIの「第3編 生物の多様性」の中で中項目として出てくるのですが、生物Iでは進化について触れもしません。
<例>
三省堂高校生物教科書目次
高等学校生物I
第1編 細胞
第2編 生殖と発生
第3編 遺伝
第4編 環境と動物の反応
第5編 環境と植物の反応
高等学校生物II
第1編 タンパク質と生物体の機能
第2編 遺伝情報とその発現
第3編 生物の多様性
第4編 生物の集団と環境
第5編 課題研究
進化生物学は現代生物学のバックボーンとなる重要な項目です。
生物学のあらゆる部分に関わってくるものであり、本来こんな軽い扱いであってはならないのですが…
特に問題なのが、生物Iで進化について学ばない点です。
「生物IIにあるならいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、これだと文系の人は進化について学ぶ事が無いままだし、たとえ理系であっても、物理化学を選択した人はやはり進化について学ぶ機会がありません。
これの何がまずいのか分からない人は、ネットでちょっと調べてみるといいでしょう。
例え理系の大学を出ていようとも、生物学のバックグラウンドが無く進化について勘違いした言説をまき散らしている人などいくらでも見つかります。
「動植物学は生物IIで教えれば十分だから、キャンベル生物学と同様に、遺伝の後に進化を持って来い」というのが私の感じることですね。
もう一点、読んでいてニヤリとさせられる内容がいくつかあったので、一つ紹介しておきます。
P.874の遺伝子組換え作物に関する議論の項目です。
Btトウモロコシの花粉をチョウの幼虫に食べさせるという、一部で有名な例の実験の真相が載っていたのですが、一部のGMO反対論者は今も知らずにこのネタを取り上げているようなので、参考がてら引用しておきましょう。
実験室で、オオカバマダラという大型チョウの一種の幼虫(毛虫)に対して、この虫が好んで食べるトウワタという植物の葉に、遺伝子組換えしたBtトウモロコシの花粉を大量に降りかけて食べさせると、有害な反応が起こり死ぬこともあった。この研究は、信用されず、科学の自己修正のよい例を提供することになった。結局のところ、研究者はもともと、トウモロコシの雄花を実験室内でトウワタの葉にふりかけたとき、雄ずいの花糸、開いた花粉嚢、などの花器官の一部が葉に落ちたのだった。続いて行われた研究では、Bt毒素を高濃度に含んでいたのは、花粉ではなく、こうした他の花器官であることが明らかになった。花粉とは違って、花器官の部分は落ちることはあっても、風に運ばれて近くのトウワタの植物体に運ばれることはない。
元々ありえない量の花粉を食わせているという批判を受けていた実験ですが、それ以前に本来食べるはずの無い花粉以外の部分を食わせていた、しかも毒を含んでいたのはそこだったという、もう笑うしかない結論に達したというのは、何故か日本では余り知られていません。
少し話が逸れますが、「○○は危ない!」という情報には真偽も気にせずすぐ飛びつくのに、その後結局どうなったのかは気にしない人って多いですよね。それが日本人の国民性なのかどうかは知りませんが、例のベストセラー「買ってはいけない」なんかは、まさにそこをうまく突いた本だと言えそうです。
まあそれはともかく、こういう真相が明らかになってますので、GMO反対派の人たちは早いこと持ちネタの修正を図る事をお勧めします。こんな実験をオオマジメに取り上げていると、真相を知っている人には笑われてしまいますから。
そんなこんなで、本書では随所にこういった実社会とリンクしたネタが取り上げられているので、単に読み物として見た場合もそこそこ楽しめます。
大学レベルの教科書ではありますが、多分高校で生物を履修した人ならば、何とか本書の中身に付いていけるはずなので、生物学に興味のある人なら一度読んでみるというのもいいかもしれません。
#中学理科レベルではさすがに厳しいと思いますが。
私は多分、この本を読むだけで今週末が潰れるでしょうw
しかし、注文するたびに思うけど、アマゾンのワンクリックは危険な機能ですなあ。
アフィリエイト一件御成約w
私も他の本を探しているときにこの本を見かけて、ついついカートに入れちゃいましたw
こちらの嗜好を巧みに突いて来るあの広告は恐ろしい機能です。
今月のAmazon書籍購入額、既に5万オーバーですよ。
本棚も一杯になっているので連休までに新しい本棚買わないと。
今月はいろいろ買いすぎて本エンゲル係数(笑)が跳ね上がっているので、次の給料をもらったら万札握り締めてレジに走ります。
英語版ですけど これけっこう便利ですよね
私も今月は欲しい本がたくさんありすぎて、来月の請求がえらい事になりそうですw
こういうときは社会人になって良かったとつくづく思いますね。
学生の頃なら先立つものが無いので絶対あきらめてましたから。
>maxillipedさん
はじめまして。
邦訳はまだちょっと訳が硬いですが、中々いい本だと思います。