M2の院生だと名乗る人から
「バイオインフォマティクスの仕事に就きたいので相談に乗って欲しい」
という趣旨のメールを貰った事がありました。
内心「今から?半年前なら何とかなったものを」と思わないでも無かったのですが、承諾の旨の返事を「就職の前にこれだけは考えといた方がいいよ」という簡単なメモ書きと共に送りました。
残念な事にその人は以後音沙汰が無く、私もその事をすっかり忘れていたのですが、
最近入社面接で学生がちょくちょく会社に訪ねて来るようになったためにその時のことを思い出しました。
考えてみればこういう情報はあまりないので、この機会にエントリを書いておけば誰かの役に立つ事もあるでしょう。
バイオインフォマティクスの中の人が見たら「何を当たり前のことを」と思う事ばかりでしょうが、私自身が学生のときを振り返ってみても結構知らなかったことがありますしね。
何か「こういう情報が欲しい」というのがあればコメント欄にでもリクエストを投げていただければ、手の空いたときに対応します。
1.方向性を決めよう
◆最初に考えるべきことは、自分が何をやりたいのかという事
何を当たり前な事を言われるかもしれませんが、一口にバイオインフォマティクスといってもその仕事の中身は千差万別です。会社・研究組織ごとに得意とする分野も違えば行っている業務も違います。
例えばゲノム解析・タンパク質構造解析・パスウェイ解析などの研究解析と、解析ソフトウェアの作成・研究支援ソフトウェアの作成などのソフトウェアデベロッパ的な仕事では相当分野が異なりますし、顧客の研究業務を支援するためのバイオインフォシステムを提案・構築するコンサル・SIer的業務というのもまた毛色が違ったものになります。
やりたい仕事に就くために、そしてこんなはずじゃなかったと後悔しないためにも、自分が何をやりたいのかはよく考えてみるべきです。
◆研究解析業務を目指す人へ
もしあなたがゲノム解析・タンパク質構造解析・パスウェイ解析などの研究分野の最前線を突っ走りたい人の場合、IT業界のバイオインフォ企業に入るよりは、国や大学も含む公的な研究機関か、医薬・発酵食品系の企業の研究所を目指すのがいいのではないかと思います。ウェットとドライと両方やりたいという人もこちらですね。
IT系のバイオインフォ企業というのは、基本的にデータの解析そのものはやっていません。
そういう仕事は、バイオインフォ企業の支援を受けた研究者、研究機関がやる事です。
◆バイオのソフトウェアデベロッパーを目指す人へ
世間的に『バイオインフォマティクスの会社』として認知されているものは、基本的にこのソフトウェアデベロッパー(ソフトウェア開発会社)と次に述べるコンサル・SIerのどちらか、もしくは両方の要素を持った会社になります。
もしあなたが研究支援ソフト・解析ソフトを作りたいのであればこういった会社に入るか、もしくはそういった研究を行っている大学の研究室に入るべきです。
注意点としては、「バイオの研究者」には馴染みの薄い医療支援ソフトウェアや分析機器の組み込みソフトなどの開発企業もこのジャンルに含まれてくるという事でしょうか。
また、直接的な意味で『バイオの研究を支援する』ソフトウェアを作っている国内の会社というのは実は少ないです。
バイオのソフトウェアデベロッパーを目指す人は、受ける会社がどんなソフトを作っているかしっかりと研究しておくべきでしょう。
もう一点。コンサル・SIerでもそうなのですが、日本にはバイオインフォマティクス専業の企業というのは非常に少ないです。専業かつ一定期間以上存続して経営が安定しているところとなると片手で足りるんじゃないでしょうか。
大部分のバイオインフォマティクス企業は他の事業との兼業の会社です。
それゆえに、あなたがバイオ事業を目的に入社したとしても、会社の都合によって他の部署にまわされ希望の職種に就けないという可能性が常にあります。
民間のバイオインフォ企業に入社する事を考えるならば、このことは常に頭に入れておくようにしてください。
◆バイオインフォのコンサル・システムインテグレータを目指す人へ
この分類の企業は、バイオの研究機関に対し、バイオインフォマティクスのデータベースやデータ解析・業務支援システムの導入を提案、実行する企業です。
デベロッパとの兼業企業は別ですが、基本的に自前でのソフトウェア開発は行わず、既存のハード、ソフトウェアを組み合わせたシステムを取り扱います。
コンサル的な業務に魅力を感じる人はこちらになります。
自分でプログラムを組むのはちょっとという人もこちらでしょうか。
注意点として一点だけ。SIer業務を行う企業では顧客のシステムの運用保守業務に携わる人間が少なからずいて、それはバイオインフォでも同じです。SIerに行くなら、企画提案ではなくこういった裏方作業に回る可能性もあると知っておきましょう。
私は運用保守も大事な仕事だと思っていますが、知り合いで1人運用保守にまわされて「こんなはずじゃなかった」と辞めてしまった人を知っているだけに、これは記載しておく必要があると考えています。
◆まとめ
細かくあげるときりが無いので大きく3つに分けましたが、一口にバイオインフォマティクスと言っても方向性の違う様々な業態があることはご理解いただけたのではないかと思います。
まずは自分の進む方向を決める。これが第一ステップです。
方向性が決まったならば、次は企業の情報集めですね。
かなり長くなってしまったので一端ここで切り、次に続けたいと思います。
続き
・幻影随想: BioInformaticianを目指す人の為に〜2.バイオインフォマティクス主要企業一覧〜
・幻影随想: BioInformaticianを目指す人の為に〜3.バイオインフォマティクス業界の人余り問題を考える