2007年03月05日

イスラム世界の創造論

以前どっかのエントリでちょろっと言及した事があった気もするのだが、
イスラム世界の創造論普及活動について書いている記事を見かけたのでメモ。
「イスラーム創造説」の時代、始まる

コメント欄を含めて大いにツボにはまった。
既に進化論が『進化生物学』にまで昇華している時代なのに、
「私は進化論者です」って言う意味あるんだろうか?
現代生物学は進化生物学抜きには成立しえないんだが。
 
 
 
紹介されているフィガロの記事内容を読むだけでも実にツッコミどころ満載で、イスラーム世界の創造論が本場アメリカのID論の足元にも及ばないレベルだと良く分かる。
既にID論者ですら使わなくなったようなネタを堂々と掲げてどうする気やらw

まず受けたのが、
「ダーウィン主義と、ファシズムや共産主義といった血みどろのイデオロギーの、秘めやかな関係」を告発

という部分。
ああ、またいつものかと思わず生暖かい笑みがこぼれる。

どうやら共産主義のダーウィン進化論に対する弾圧の歴史を知らないらしい。
当然ルイセンコ論争についても知らんのだろうな。
ネオ・ラマルキズム - Wikipedia
ルイセンコ論争 - Wikipedia

おまけにいつもの『社会ダーウィニズム』と『進化生物学』を混同する勘違い。
彼らはいつになったらこの判で押したような間違いから脱却するんだろう?
『社会ダーウィニズム』がファシズムや共産主義につながったというのは確かに正しいんだが、そもそも『社会ダーウィニズム』自体が進化論のご都合主義的曲解から生まれた典型的な『自然主義の誤謬』に過ぎないわけである。
#そもそもあれはむしろラマルキズムの後継と言った方が近い。
#だからこそ共産主義とルイセンコ学説も共鳴し合ったわけだ。


どうやらその後も延々と『ダーウィン主義』を批判しているようだが…
彼らは進化論を批判しているつもりなのかも知れないが、明後日の方向に向かって無意味な批判をしているに過ぎない。
『進化生物学』が『社会ダーウィニズム』と相容れることは無いのだから。

彼等のやっている事は、例えて言うなれば
『原爆廃絶を叫ぶ人間がその為に相対論は間違っていると主張する』のと同じくらいずれている。

社会進化論 - Wikipedia
進化研究と社会:自然主義の誤謬


記事中ではフランスの生物学者のコメントとして
「これは新種の創造説ですね。それも、北アメリカで猛威をふるっているキリスト教系のものよりも油断なりません」

という発言が書いてある。
ホンマかいなと思ったので、とりあえずWEBで公開されている創造のアトラスを探してちょっと目を通してみたが、やっぱりアメリカのID論の劣化版でしかないと思った。
ダメじゃんコメンター。
ATLAS OF CREATION - Harun Yahya


しかしこのサイト何気にすごいな。
コンテンツ量もすごいし、ビジュアルのクオリティも中々の物。滅茶苦茶金をかけている。
フィガロ紙でHarun Yahyaの背後関係を気にしている理由が良く分かる。
こりゃバックには相当大きな組織がついてるわ。


ちなみに関連情報を探しているときにちょうどいい論文を見つけたので読んでみたのだが、Harun Yahyaが本拠としているトルコの生物学教育はかなりいい感じにキている。
教科書から進化に関する記述がほとんど削られ、代わりに道徳教育では公然と創造論が教えられている。
進化論を教えたらクビということもままあるらしい。
イスラム世界の事情はどこも大差ない惨状のようだ。
おかげで実際の論説の中身が大したこと無くても、Harun Yahyaの言説が通用してしまう。
進化論裁判の頃のアメリカ並みだな。
進化論裁判 - Wikipedia


関連部分を引用しようかとも思ったが、引用したい部分が多すぎて実際に読んでもらった方がいいと判断したため、トルコの進化論教育と創造論への傾斜具合を解説する論文を下にリンクしておく。
分量的にはそんなに多くないので、興味がある人はどうぞ。
トルコにおける進化論教育の現状



この記事へのコメント
  1. そうですかね。
    このリンク先の記事を読んだ時ふと思ったのは
    「数は力」という単純な言葉だったんですけどね。
    フランスの生物学者が言った言葉は聞き捨てならない気もします。
    この場合、中身のことはどうでも良くて、この言葉が流通する事情とそれが受け入れられる政治、宗教風土の方を考えるべきでしょう。
    管理人さんはバカバカしい二番煎じととらえているようですが、フィガロの方はそうでもありません。
    不気味さと危機感がその文面にあるようにこちらに思えるのは、人工の1割がすでにイスラム圏の人工でしめられているという、この今のフランスのかなり危うげな現状が背景にあればこそで、この場合はこれがイスラムの正当性のつなぎの材料として用いられる可能性があるからでしょう。

    どちらにしても10億の信者を抱える宗教で、一見イスラム的に否定できない論理を持って間違っていると分かっている事柄を浸透させてゆこうなどという背景をもってイスラム世界の事情はどこも大差ない惨状のようだ。と断ずることは危険きわまりないことです。

    これが否定されても、神がこの世界を作ったのだという大前提をどんな形であれ世界のほとんどの人間が基本的な認識として持っているこの世界で、一度流れが作られれば、もっと巧妙にもっと信じやすい形で新たな論が作られる危険性は高く、それが今馬鹿にしている合理主義者たちをして、多数の暴力が、本論定理を排す形で嘆きの歌におとしめられる可能性もあるのですから。
    その意味では一国内で収まり、その中にあってもきちんとしたバランス装置が底にあるアメリカよりも油断がならないという思いにとらわれるのはむしろ自然なことではありませんか。

    これはMSのβVerのようなものだと見るべきでしょう。次はある、そうみるべきです。
  2. Posted by はやや at 2007年03月08日 13:51
  3. >はややさん
    はじめまして。
    多分はややさんと私とでは問題意識の根本が違っているのでしょう。
    私は疑似科学ウォッチャーですので何よりもまず彼らの論理展開が気になります。
    そして私にはID論の二番煎じ程度がID論以上のインパクトを与えられるとはどうしても思えないのですよ。
    『知彼知己、百戦不殆』
    進化生物学を学ぼうとしない限り彼等に先はないでしょう。

    それから「科学」が数なり権力なりの暴力の前に屈させられるというのは科学史の中では結構ありふれた事件です。
    ルイセンコ事件然り、進化論裁判然り。
    古くはガリレオの宗教裁判なんかもそうですね。

    そしてその度に結局どうなったかも歴史が示すとおりな訳です。
    力で科学を押さえつけようとしても、一時凌ぎにしかなりません。
    今よりもっと宗教の影響力が強かった時代を科学は生き抜いてきているということをお忘れなく。


    ついでに、多分はややさんと私では世界認識にズレがあると思います。
    具体的にはこの部分ですが。
    >神がこの世界を作ったのだという大前提をどんな形であれ世界のほとんどの人間が基本的な認識として持っているこの世界で〜

    よろしければこちらの記事も一緒にどうぞ。
    科学の進歩に伴う創造論の変遷の経緯とID論の位置づけについて、簡単にまとめてあります。
    『もっと巧妙にもっと信じやすい形で新たな論』は、既存の論理の辻褄合わせ的な修正からは生まれ得ないでしょう。
    そしてまったく新しい論理を創造することは、彼等の教義を侵すという二律背反を抱えているわけでして。

    幻影随想: ID論の創造論内における分類学的位置付け
    http://blackshadow.seesaa.net/article/14613608.html
  4. Posted by 黒影 at 2007年03月09日 00:47
  5. イスラームは、進化論などの近代科学との相性がかなり悪いです。
    というのも、イスラームは、クルアーンの記述は全知全能の万物の創造主・アッラーの言葉そのままとされ、完全に無謬なものと一般的に考えられています。
    そのため、キリスト教と違い、ムスリムで進化論を認める人は極少数です。
    ムスリムである限り、クルアーンの記述は絶対の前提であり、科学者と言えども例外ではないのです。
    これが、米国以上の創造科学台頭の原因です。
    そしてこれが我々にとって問題な点がいくつかあります。
    まず、進化論といったムスリムの信仰と相容れない科学を、子供に教育したり、公費を使って研究したりすることに彼らが反対することです。
    もう一つは、イスラム圏の地域に、そうした科学研究ために入る際に彼らの妨害を受け、研究が不可能になることです。
    前者については、イスラム移民の人口が多い地域では、ムスリム児童には、平等に進化論などの科学教育することが不可能になっているようです。
    ムスリム児童はイスラム系学校で独自教育を受けているようなのです。
    日本もいずれそうせざるをえないかもしれません。
    また、進化論研究に対する公費の支出も、イスラムを否定するための研究だとして反対することが今後予想されます。
    すでにイギリスではそうした訴訟があり、原告敗訴になったものの、反対の声が増えていけば政治的に無視できなくなります。
    後者については、すでにそうした状況が起きています。
    イランやサウジで化石人類の発掘は元々無理ですが、それが今後他のイスラム圏に波及するかもしれません。
    インドネシアは、ジャワ原人の出土で有名ですが、最近もホモ・フローレシエンシスが話題になりました。
    しかし、ピーター・ブラウン博士のグループから、骨はインドネシアのヤコブ教授が取り上げ、例の骨はホモ・サピエンスの物だと反論されました。
    オーストラリア人のブラウン博士達の発掘は植民地主義的という反発の他にも、イスラームでは、人類は皆アダムとイブの子孫、進化はないという動機があるようです。
    進化論に基づいた研究その物が欧米的価値の押し付けという反発につながっているのです。
  6. Posted by クラッシュ at 2007年03月11日 15:11
  7. >クラッシュさん
    コメントどうもです。
    >イスラームは、進化論などの近代科学との相性がかなり悪いです。
    そうみたいですね。
    昔知り合いのムスリムの研究者が、国じゃ研究がしづらいとこぼしてました。

    科学と宗教を対立軸に捉えて宗教を選択するのがその国の国民の多数意見だというなら、まあ好きにしたらいいのではないかと思うのですが…
    科学と技術が車の両輪である以上、科学を捨てる事は技術を捨てる事と等しい訳で、イスラム諸国はその辺どう折り合いを付けていくんでしょうね?
  8. Posted by 黒影 at 2007年03月14日 00:35
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Excerpt: Leftistたちも「ランダムな突然変異と自然選択」による進化は大嫌い。そして創造論者と同じようなこと言い出す。
Weblog: 忘却からの帰還
Tracked: 2007-03-06 22:35