2006年08月28日

貯水量1000万トンのダムに25トンのNaOHを投げ込みました

さて、頭が錆付かないようたまにはお勉強でもしましょうか。
使ってこその知識です。
高校で化学をやった人は是非ともチャレンジしてみてくださいな。

◆練習問題
1Lの水が入ったビーカーに2.5gの水酸化ナトリウム(NaOH)を溶かしました。
さて、このとき溶液のpHはいくらになるでしょうか?
NaOHの分子量40.0、電離度は1とします。



高校レベルの化学の問題です。
2.5gのNaOHを1Lの水に溶かせば0.0625mol/L
水酸化物イオン濃度が10^-1.2mol/LなのでpH12.8となります。
ちなみにこの位のpHの水溶液だとアルカリ性が強く皮膚も溶けますので取り扱いには注意が必要です。
ここまではよろしいでしょうか?

それでは実地演習に移ります。 
 
 
お題はこちら、中国でのNaOH流出事故です。
CNN.co.jp : 化学品積載トラックがダムに転落、水源汚染 中国 ? - ワールド
北京(CNN) 中国北西部の陝西省韓城で25日夜、毒性の高い水酸化ナトリウム25トンを積んだトラックが道路からダムに転落し、車に乗っていた1人が即死、1人が重傷を負ったうえ、10万人の水がめとなっている貯水池が汚染された。新華社が26日、同省環境当局者の発言として伝えた。

事故現場付近の道路は雨のため、スリップ事故を起こしやすい状態だった。

貯水池はダムから5キロの地点にあり、同省政府はアルカリ性の水酸化ナトリウムを中和するため、現場に塩酸10トンを運び込んだ。

犠牲者に黙祷。
この前は塩酸を数十トン河にぶちまけていましたが、今度は水酸化ナトリウムですか。
ずさんな管理を何とかしないと、そのうちもっとやばいものをひっくり返すんじゃないかと心配です。


さて、ここで問題です。
(1)貯水量1000万トンのダムに25トンの水酸化ナトリウムが投下された場合、pHはいくつになるでしょうか?
(2)また、この汚染は12mol/Lの濃塩酸10トンで中和可能でしょうか?
元の水中pHは7.0とし、環境中の他の物質による影響は考慮しなくて構いません。また、中和反応は完全に進行するものとします。




◆答え
(1)ダムのpHはどうなる?
対数計算が面倒なことを除けば練習問題とそれほど変わりません。
水酸化物イオン濃度がさっきの1000分の1になるだけです。
ゆえに(1)のpHは9.8になります。
手についても少しヌルヌルする程度ですが、まだまだ環境への影響を無視できる濃度じゃありません。
だから何とか少しでも中和しようとする努力は間違いではありません。
(余談ですが、同程度のpHでアルカリが皮膚を溶かす効果を利用した美肌の湯と称される温泉もあります)



(2)10トンの塩酸で中和できるのか?
さて、問題は水酸化物イオン濃度10^-4.2mol/Lの溶液1000万トンに12mol/L濃度の塩酸10トンをぶちこんでどこまで中和できるかなのですが…
残念ながら、この量では足りません。
計算すればすぐに分かるとおり、pHは9.7とほとんど変動しません。
完全に中和しようと思ったら今の五倍、50トンは必要です。


多分地元の行政機関は、貯水池だけ何とかして飲料用水だけでも確保しようとしているのでしょうが、これでは環境への影響がかなり心配です。このダムの水質が元々酸性寄りだったり、あるいは水中に多量のキレート成分が含まれていたりする可能性でも祈りますか。


…それにしても、あの国はそのうち公害で国が傾くんじゃなかろうか。


posted by 黒影 at 22:54 | Comment(8) | TrackBack(0) | 時事問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 記憶違い。塩酸じゃなくて硫酸だった。しかも220トン…orz

    中国京杭大運河:貨物船沈没、硫酸220トン流出で重大汚染事故
    http://www.epochtimes.jp/jp/2006/08/html/d60345.html
  2. Posted by 黒影 at 2006年08月29日 00:57
  3. NAOHいわゆる苛性ソーダ溶液を日常的に職場で使ってるんですけど、ここまで大きい規模だと中和するにも撹拌用のアジテータが必要だと思うんですが、どうなんでしょうか。

    あとアルカリ性温泉で顔を洗うのは目に入ることを考えると、ちょっと怖いことじゃないでしょうか。一年に数回ならたいした問題でもないでしょうけど。
  4. Posted by SLEEP at 2006年08月29日 15:13
  5. ちょっと気になったので調べてみたのですが、

    http://www.shanghaidaily.com/art/2006/08/28/290321/Shaanxi_water_source_gets_all_clear.htm

    によると、10tonの酢酸と塩酸で中和したようです。結果として1〜2日後にはpHは正常に戻ったということらしいです。(報道が正しければですが。。)

    もっとも、pHが正常でも通常の浄水システムで生成した食塩分が飲用に適したレベルまで除去できるのかどうかは疑問もありますが。

    他のニュースも見てみたのですが、ローリー内の苛性ソーダが全量ダムに流れ出したわけではなく、少なくとも一部はタンク内に残っていたようですから、とりあえずダムの水を中和するのに必要な量はやや少なくても間に合ったのかもしれません。

    なお、ダムに転落したのは苛性ソーダ水溶液とのことなので、25%か48%程度の濃度ではないかと推定されます。もしも25%だとすれば、酢酸と塩酸で全量が中和できるのではないかとも思われます。
  6. Posted by tf2 at 2006年08月29日 15:59
  7. >SLEEPさん
    これだけスケールが大きいと後始末も大変でしょうね。
    どうやったのか私も知りたいです。

    >tf2さん
    記事にトラックと書いてあったのでてっきり固体だと早とちりしていました。
    10トンの酸で中和しきれたのなら、おっしゃるとおり25%程度の濃度の溶液だったのでしょうね。
    勘違いを正してくださってありがとうございます。

    それにしても、ご紹介の記事のこの下りにはゾッとさせられました。
    >One person in the truck was killed and another seriously burned.
  8. Posted by 黒影 at 2006年08月30日 00:10
  9. 空気中の酸素と結合も結構有りますから酸は少なくても良いのでは無いでしょうか?
  10. Posted by 通りすがり at 2006年08月31日 01:06
  11. >通りすがりさん
    あ、横からすみません。化学不勉強なものでして、好奇心からお伺いします。
    水溶液中の水素イオンと酸素イオンの中和反応や、燃料電池電極などの電子供給下での水素イオンと酸素の結合は聞いたことがあるんですが、
    大気中の酸素分子の酸素と水溶液中の水素イオンが結びつく中和の経路って、どんなものがあるんでしょう?
  12. Posted by 有辺 at 2006年08月31日 12:22
  13. >通りすがりさん
    >有辺さん

    多分二酸化炭素の間違いでしょう。
    NaOH溶液のビンの口に炭酸塩の結晶がこびりついている風景は研究室の定番ですよね。
  14. Posted by 黒影 at 2006年08月31日 18:41
  15. そうかあの白い粉は炭酸塩だったんですね。
    危険触るなって教えておこう。
  16. Posted by SLEEP at 2006年08月31日 21:48
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック