◆関連記事:毎日新聞がまたやってくれちゃっている件について
ちょっと調べたらすぐにガセと分かるネタ。
しかもこれを憂慮するまともなNPOが事前に問題点を説明するメディアセミナーまで各地で開くという親切振りだったのに、何でまだ引っかかるのかなぁ?
・ILSI Japan バイテク情報普及会 緊急メディアセミナー
正直言うと、既に半年も前のネタで事前に十分な情報が供給されているのだから、さすがの毎日でも今回ばかりは駄目かもしれないと思ってたのに。
今度おごることを条件に友人から手に入れた問題のブツがこちら。
どうもWeb上には出ていないようです。
ソース:毎日新聞7月6日大阪発行所版、第3面(他の版では未確認)
https://blackshadow.up.seesaa.net/image/mainichi-gmo.jpg
遺伝子組み換え大豆 子ラット6割死ぬ
胎内、生後に摂取 ロシア科学アカデミー
ロシア科学アカデミー高次機能・神経行動学研究所のイリーナ・エルマコバ博士が、親ラットに遺伝子組み換え大豆を混ぜた餌を食べさせ、生まれた子ラットにも与える実験をしたところ、生後3週間までに約6割の子ラットが死んだ。遺伝子組み換え大豆の慢性毒性の可能性を示す初めての研究結果といい、6日に大阪市で開く講演会で報告する。
現在、大豆やトウモロコシなど遺伝子組み換え作物は日本でも大量に使われている。だが内閣府の食品安全委員会が定める安全性評価基準では、動物で安全性を確認する実験の義務はなく、慢性毒性の実態などはほとんど分かっていない。
イリーナ博士は、遺伝子組み換え大豆の粉末を毎日5〜7グラム混ぜた餌を親ラットに交配の2週間前から食べさせ、妊娠中や授乳中も与えた。さらに、生まれた子ラットにも同じ餌で飼育した。
その結果、生まれた子ラット45匹のうち、生後3週間までに25匹が死んだ(死亡率55.6%)。一方、通常の大豆を混ぜた餌の場合、生まれた子ラット33匹のうち、死んだのは3匹(同9.1%)だけだった。 【河内敏康】
遺伝子組み換え作物に詳しい金川貴博・京都学園大学教授(環境微生物学)の話 遺伝子組み換え作物による慢性毒性の調査例は少なく、子供への影響について初めて示した点で注目される。ただちに人間に当てはまるものではないが、遺伝子組み換え作物の安全面の研究を国が率先して実施する必要がある。
あははは、な〜んも勉強していないことが丸分かりの見事な提灯記事ですなぁ。
このイリーナ博士の実験のデタラメさは以前の記事でもちょこっと触れたし、下の松永さんの記事がほぼ全てを物語っている。
・FOOD・SCIENCE:松永和紀のアグリ話●「科学」の名に値しない遺伝子組み換え毒性試験(1)
・FOOD・SCIENCE:松永和紀のアグリ話●「科学」の名に値しない遺伝子組み換え毒性試験(2)
◆問題点
1.使った餌の問題
NonGMO大豆として大豆加工食品を使い、GMO大豆には生の大豆を使っていた可能性が高い。
生の大豆には毒性があり、ラットの健康に対する影響があることが知られている。
GMO大豆のタンパク質抽出物がほとんど毒性を示していないことを考えるに、単に生大豆の毒性が原因で子ラットが死亡したと考えるのが一番妥当な結果。
それにも拘らず、博士は使った餌の詳細や、生大豆の毒性をどう考えているかを問い詰められて口を濁した。
生の大豆と加工食品では成分組成がまったく違う。実験でこのあたりをまったく考慮していないのは杜撰というしかない。
2.ラットの扱いの杜撰さ
この実験ではラットの扱いもまた極めて杜撰だ。
通常実験に使われるラットは遺伝的に純度の高い単系統で、個体間の差異は小さい。
ゆえにちゃんと世話をしていたらそんな極端な個体差は現れないはずなのだが。
さらにどの固体がどれだけ餌を食べたかなど、行動記録もろくにとっていないようだ。
3.半年以上前に実験の不備を指摘されながら何もアクションを起こしていない点
イリーナ氏は昨年暮れにACNFPに実験の不備を指摘されていながら、再実験はおろかデータの再整理すらしていない。私の知る限り反論もなし。
そして致命的な不備の指摘を放置したままこうして海外に「布教」に来る。
これはまともな科学者ならありえない態度であり、彼女が「アンチGMOキャンペーン」を煽るために適当な実験をやってしらばっくれているのは明白である。
イリーナ博士が詭弁と言い逃れに終始したことや、天笠氏が日寄ったことはトンデモウォッチャーとしては想定の範囲内(といっても想定の範疇で最悪の部類に入るが)。
ここまで腐っていやがったのかと大爆笑したのだが、サイエンスに関わるものとしては松永さんの怒りと悲しみが痛いほど伝わってくる訳で、非力ながらちょっとでもこの問題の事実周知を図るためにキーを叩いてみる。
ついでにとれまさんに便乗して理系白書ブログにもTBしてみよう。
理系白書さん、最近の毎日新聞のトンデモ記事乱発は何とかなりませんかね?
もうちょっと公器としての自覚をもって貰いたいのですが。
松永さんが最後にこう書いているのがなんとも切ない。
今回の博士の研究の取材にあたって、私は大勢の研究者や関係者のご助力をいただいた。その間、だれもが怒り悲しんでいるように思えて仕方がなかった。「こんなデタラメ研究に、なぜ日本は騙されてしまうのか。日本人の科学リテラシーはそれほど低いのか」という深い絶望感である。
残念ながら、4日の講演会で集まった生協の組合員たちは、博士にころっと騙されているように見えた。私と同世代やもう少し若い人たち。子を持つ母親である。彼女たちには、このトンデモ研究が見破れない。
そしてこういうところで絡めとられた人間はやがて運動の一員となり、運動に踊らされ、同類を拡大再生産していくことになる。
トンデモはカルトやねずみ講に近い性質を持っている。
よく観察すれば大規模なトンデモネタには必ず高笑いする受益者がいることが分かるはずだ。
これがトンデモとそれに加担するメディアの一番罪深いところであり、
だからこそトンデモ批判が必要なわけだ。
しかし批判者ですら見落としがちな重要なポイントが一つある。
連中がやっていることの本質は「科学の仮面を被った政治運動」「科学の仮面を被った社会運動」であって、「科学」そのものではないという点だ。
だから自分の主張を通すため、敵対する主張を叩くためには科学的正しさなど放り出し、嘘やデタラメも平気で主張する。
彼らにとって「科学」は自分たちの主張にもっともらしさを演出するための道具に過ぎない。
ゆえに私はイリーナ氏や天笠氏に科学的誠実さを求めるのは無意味であると考えるし、彼らが今後も平気な顔で同じ主張を繰り返すだろうと予測する。
彼らの行動指針が「科学」ではなく「政治運動」であるからだ。
科学的な批判は確かに大切なのだが、それだけでは駄目で、政治、社会の側面からもこういった動きを捉えていかないと思わぬところで足をすくわれる事になる。
ちょうど今バイオテクノロジーが様々な場面で彼らのご同類に直面しているようにだ。
全ての人が科学リテラシーを持つわけではない(むしろそんな人は少数派である)現実がある以上、
科学が自らの主張を怠れば簡単に劣勢に回ることになる。
トンデモがはびこる現状を見るに、もう少し主体的に情報発信する必要があると思う。
◆まとめ
結論としては以下の3点に尽きるか。
1.毎日新聞はもうちょっと見る目を持ってくれ
2.イリーナ博士とその主張はトンデモ
3.トンデモを放置すると社会問題に発展することもあります。
早めの予防が肝心です
当たり前のようでいて、これがなかなかに難しい。
あ、こんなところにも釣られているのが。
・Yahoo!ニュース - 朝日放送 - <大阪>遺伝子組換え大豆 安全性に疑問の研究結果
後日談
◆関連記事
・目黒で電波浴
・イリーナ博士東京公演レポート
ところでうちにグリーンコープの足跡がありました。ここにもあるのでは?
こういう批判記事を知っていながら結局講演会では予定通りGM危険と言い続けるんでしょうね。
消費者のための団体ではないってことを証明するようなものなのですが。
そして天然の食材と言ったところで絶対に安全な食物などは存在しないと言うことでもありますね。アレルギーのことまで考慮に入れたら特定個人にとって猛毒に等しい訳ですし。
少なくとも(自覚のあるなしはともかく)政治でやっている人がいるのは間違いないでしょう。
ですが私は知らずに引っ掛かっているほうに100円賭けます。
>uneyamaさん
政治的対応は必要です。絶対に。
少なくとも遺伝子組み換えをやっている人間ならこういう話に無関心では駄目だと思うのですが。
トンデモに対する批判文を公開するだけでも十分だと思うんですけどねえ。
>ところでうちにグリーンコープの足跡がありました。ここにもあるのでは?
ええ、こんなのが来てますね。
http://search.nifty.com/cgi-bin/search.cgi?cflg=%8C%9F%8D%F5&as_w=u&Text=%83C%83%8A%81%5B%83i%81%40%83G%83%8B%83%7D%83R%83o&select=2&chartype=&lang_all=1
http://search.yahoo.co.jp/search?p=%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2+%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E6%8F%9B%E3%81%88%E3%80%80%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%BA&ei=UTF-8&meta=vc=&fl=0&pstart=1&fr=top_v2&b=11
検索エンジン上位に私の記事が来るように出来た時点で、私の目論見は成功です。
今日の東京公演では松永さんの記事以上に凄かったですよ。
イリーナ氏の実物は天笠氏の数倍斜め上を行くトンデモさんでした。
>功島さん
ですねえ。
しかし彼らはそれをGMOの害に強引に論理飛躍するわけですが。
>ななーしさん
同感です。
今の毎日新聞、そんなに人がいないんですかねえ。
例えば農薬を減じても豆自体の毒性で敵を撃退できる。であるが故に農薬量も減らせると言う副次効果も見込めるでしょう。
そして、熱処理などの加工によってこれらの毒性が安全レベルにまで下がることで、人体が摂取しても問題が無くなる。逆に言えば、食品を加工して摂取する知恵のある動物にだけ食べる事が出来る食品、それが槍玉に挙げられているGMOだったりするのでしょうか。
そうだとしたら、生の状態でラットに与えたら致死率が高かったと言うのは、むしろ当然の理屈と言う事になりますね。
理系白書にどれくらい期待できるか疑問ですね。
担当記者(科学環境部キャップにして科学ジャーナリスト大賞受賞者様)のブログに、同僚ですって登場した次長様が、酒飲んで仕事するのを毎日の社風だ、というような趣旨の発言して顰蹙かって、当人がそれっきりだったこともあって、スレッドが荒れた、という事態も最近発生してます。それをブログ主もスルーしている。
プロの物書きのくせに自分の書いた文章に責任もてない体質の会社ではないかと思いますね。
そのような主張をしたいのであれば、GM大豆も在来大豆も生で与えなければ意味がありません。GMが生で、在来が加熱では「生と加熱」の比較なのか「GMと在来」の比較なのかわからないじゃないですか。
その辺がトンデモと言われる所以です。
ここで念のためもう一つ付け加えたいのは、生豆を与えた段階で有意にGMO群で致死率が高いという結果が出ても、加工した段階で両群に有意差が出なければ、それはGMOの「危険性」を結論付ける証拠にはなり得ないと思っています。
前の発言を含めてよくよく読んだら意味がわかりました。私の方こそ、早とちりで申し訳ありませんでした。
松永和紀 同大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。
元村有希子 高校3年までは理系コースに所属するが、大学受験で文系に転向。
実験レポートも書いたこともないような
有希子タンに科学的思考ができる訳がないにょ。
>元村有希子 高校3年までは理系コースに所属するが、大学受験で文系に転向。
>実験レポートも書いたこともないような有希子タンに科学的思考ができる訳がないにょ。
そんなこと無いよ。実験レポートを書くのは研究を職業とする人間の義務ではあるでしょうが、科学的な思考をできるかどうかはかなり個人個人の資質によりますよ。本人が書いたものを読ませてもらってこの方はきちんとした科学的思考ができているかどうかを判断してあげれば良いのですよ。
だから、xxxタンに科学的思考が出来るわけが無いと言い放つのではなくて、xxxタンが書いた文書には科学的な思考が出来ていたかどうかをコメントしてあげるほうが良いでしょう。そして、もし、科学的思考が出来ていないよとコメントするのであれば、その部分の論理がおかしいと具体的に指摘あげてくださいな。
いや、問題は、GMOでも何でもなくて物事の真実をいかに洞察するかというテーマを持って市民の皆さんと大いに議論しなきゃならないですね。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060818k0000e040076000c.html
わざわざ記事にするような話なのかと思ったのですが、実は毎日は8月1日にこんな記事も書いていたみたいで。
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/hokkaido/shoku/gyunyu/news/20060801hog00m100001000c.html
うっかりサンマーク出版の本なんかとりあげて、後でヤバいことに気づいて火消しに走っているという感じかもしれません。
情報提供ありがとうございます。
毎日新聞がまたやってましたか(苦笑
小島さんも大変だ。
陰ながら声援を送っておくことにします。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/news/20060913ddm013100168000c.html
ただ、生協の冊子が最近フォロー記事をのせており、
最近、またブログで話題になっているのをちらほら見るので
タイミング的には良かったのかもしれません。
遺伝子組み換えをむやみに排除する傾向には私も問題が多いと思っていますが。
あ,「トンデモ科学の政治的意図」な奴らを擁護するつもりは全くないですっ.トンデモの批判はバンバンやってください!