「買ってはいけない」という本がかつてベストセラーになった。
著者は船瀬俊介・三好基晴・山中登志子・渡辺雄二の4名。
週刊金曜日の連載を書籍化したもので、累計で200万部ほどは売れているはずだ。
しかしこの本、実は捏造・歪曲・事実誤認だらけのトンデモ本だったのである。
おそらく史上もっとも売れたトンデモ本ではなかろうか。
「買ってはいけない」の問題点を私なりにまとめ直してみた。
1)似非科学講釈
この本には科学的な間違いが非常に多い。
ソルビン酸カリウムとソルビン酸を同じ様なものだと決め付けて批判してみたり、
(塩化ナトリウム(食塩)と塩化水素(塩酸)を同じ物だというようなもの)
正露丸の成分の植物クレオソートと成分が全く異なる日本工業規格クレオソート油を混同してみたり
ちゃんと調べれば犯すことの無いはずのミスが到る所に見られる。
2)無関係な事柄を結びつける強引な三段論法
例えばキッチンハイターを取り上げて、
「酸性洗剤」と混ぜれば死の塩素ガス
<中略>
目にはいると失明し、うっかり飲むと食道に穴があく、この塩素系漂白剤を飲んだ自殺例もある。
あるいは正露丸を取り上げて、
下痢といえば、病原性大腸菌O−157を心配する人もいる。発病する人の中には死亡する人もいる。死亡の原因は「溶血性尿毒症症候群(HUS)」で、O−157が放出するベロ毒素が原因であると考えられている。下痢を止めようと抗生物質を使うと、O−157が死滅するときこのベロ毒素が大量に放出され、重症化したこともあった。下痢より恐い下痢止め剤と言えるだろう。
「買ってはいけない理由」にこんな理由になっていない理由が並ぶ。
余程書くネタに困っていたのだろうか?
3)都合の良い文献からの恣意的な引用
第三者の追試によって再現性が取れていない結果をさも事実のように扱う。
あるいは合成洗剤の毒性に関する論文など、追試で否定された結果をさも正しいかのように持って来る。
4)データの恣意的な解釈、数字のごまかし
日常生活ではありえない量を摂取しないと毒性が現れない物質を取り上げて、
毒性が現れる条件を隠したまま「こんな毒性をもつ物質が入っている」とやってみたり
あるいはアレルギーや遺伝病に関する問題点など、ごく限られた範囲での問題を
消費者全体に広げて買ってはいけないと主張したりと言った按配である。
等々、全編にわたってこんな調子で様々な商品の不買を訴えるわけだ。
以前捏造記事の書き方講座と言うエントリを書いたが、
まさに捏造記事のお手本のような素晴らしいトンデモ本である。
トンデモ本の愛好者にとっては是非本棚に置いておきたい一冊だ。
ちなみにこの本、問題箇所が版を重ねることに改竄されていくことでも有名である。
既にかなりの版を重ねているが、確か改定箇所は100箇所以上にのぼった筈
初版を持っていたらトンデモ本として骨董価値が付くかもしれないので大事に保管しておいてはいかがだろう。
前置きが大分長くなったが、本題はこちら。
◆トンデモ本著者等の近況
さて、識者からは散々に叩かれた彼等だが
それでも「買ってはいけない」のベストセラーで盲目的な信者はずいぶんついたようだ。
「買ってはいけない」では単に様々なメーカーの製品に難癖を付けるだけだったが、
そうなると信者が知りたがるのは「じゃあ何を買ったらいいの?」という答えだ。
彼等は少なくない消費者の動向を好きに出来るオーソリティーとなってしまったのだ。
味を占めた彼等は「買ってはいけない」によって得た地位を利用して今日も元気に活動中である。
船瀬俊介氏:環境問題評論家、NPO:生活環境協会
三好基晴氏:ホスメック・クリニック院長、全国アトピー友の会の顧問医、オーガニック研究会代表、NPO:生活環境協会
渡辺雄二氏:ジャーナリスト&環境・医療問題研究家
山中登志子氏:MyNewsJapan編集長
彼等がどんな活動をしているかはご自分の目でご覧あれ。
◆関連リンク
「アトピー」と環境問題の類似性 市民のための環境学ガイド
からだと化学物質 市民のための環境学ガイド
解毒剤がすぐに出されたのは良かったのですが
十分な数が売れなかったのが痛いですね。
未だに「買ってはいけない」の記述を全面的に信じているサイトがいくつもありますよ。
下記のアドレスで紹介しています。
http://blog.livedoor.jp/nihongi/
週刊誌だ。これは一番確かなことと思う。
僕の息子が週間金曜日を熱心に購読しているので、買っていけないことがよく証明された。
2009年度と学会大会で、「新・知ってはいけない!?」が第18回トンデモ本大賞を受賞しましたね。
目出度いことです。(笑)
拙ブログにて黒影様のこの頁へのトラックバック、及び文章の引用をさせて頂きました。
文章の引用については配慮したつもりですが、万一問題がありましたら、コメントまたはmixiメッセージでご連絡頂ければ対処いたします。
今後もよろしくお願い致します。
わたしはあの本の中で数度に渡り告発されたメーカーに勤めていたのですが、あんなトンデモ本に言われ放題でも宮勤めの身ではなんの反論もできなかったので、(他にも理由はあったのですが)会社を辞めた上で反論しているものです。
TBさせて戴きました。記事、ありがとうございます。
批難される供給者側からすれば、異論のある場合もあるでしょうが、誠実な話し合いで解決して頂ければと考えます。