既に各所で話題になっているのでこのブログの読者なら知っている人も多いと思うが、
数ヶ月前にこのブログで少し触れた件について、ついに裁判が開始されたようだ。
取り上げたのはこの記事。
幻影随想: ホメオパシーがようやく英国から追放されそうな件について
<3/1追記>
上で「いつ日本で起きても不思議ではない」と書いたが、実際には既に起きている。
私の知っている限りでも、自宅出産でホメオパシーにハマった助産師が適切な介助を行わなかったことが主因と考えられる胎児死亡事例が複数存在する。
どちらも現在進行形で裁判が起こるかどうかの事例のため今は伏せておきたかったのだが、コメント欄でmwhikariさんが書かれていた事例が私の知るものと別であれば、ホメオパシー助産師関係でまた事例が増えたということになる。
こうした記事にホメオパシー助産師の問題事例を書かないのは妊婦にとっての不利益にしかならないと思うので追記しておく。
事例の詳細を書くことはできないが、探せば見つかる、とだけ書いておく。
本件の第一報は読売から。
ホメオパシーの名が出ていないためベストではないけれど、十分GJな記事といえる。関係者には十分伝わる内容だ。
「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴 : 週間ニュース : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。
助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。
母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃に嘔吐し、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。
新生児や乳児は血液凝固を補助するビタミンKを十分生成できないことがあるため、厚生労働省は出生直後と生後1週間、同1か月の計3回、ビタミンKを経口投与するよう指針で促している。特に母乳で育てる場合は発症の危険が高いため投与は必須としている。
しかし、母親によると、助産師は最初の2回、ビタミンKを投与せずに錠剤を与え、母親にこれを伝えていなかった。3回目の時に「ビタミンKの代わりに(錠剤を)飲ませる」と説明したという。
助産師が所属する団体は「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。
日本助産師会(東京)によると、助産師は2009年10月に提出した女児死亡についての報告書でビタミンKを投与しなかったことを認めているという。同会は同年12月、助産師が所属する団体に「ビタミンKなどの代わりに錠剤投与を勧めないこと」などを口頭で申し入れた。ビタミンKについて、同会は「保護者の強い反対がない限り、当たり前の行為として投与している」としている。
ヒトという生物はビタミンKを体内で合成できない。
ゆえにその摂取源は、食事と腸内細菌の合成するものに限られる。
生後間もない乳児の場合、腸内細菌叢が十分発達していないため摂取源は食事=ミルクに限られるわけだが、
母乳育児の場合、母乳からだけでは十分なビタミンKを摂取できずに栄養不足を起こす場合がある。
(人工ミルクの場合は十分なビタミン類が添加されているため問題ない)
そうなると記事中にもあるようにビタミン不足から来る様々な問題を起こす。
そして問題の「助産師が所属する団体」=日本ホメオパシー医学協会=RAH(ロイヤルアカデミーオブホメオパシー)が、
ビタミンK2の問題でどのような指導をしているかをうかがわせるのが、次のQandAの回答だ。
ホメオパシー 体験談紹介
質問ですが、現在妊娠中の子にソライナムをもらっているのですが、長女には与えなかったので、たとえば水で溶かして私と長女でとっても構わないのでしょうか?それと、出産後K2シロップを与えたくないので、そのレメディーももらったのですが、これはもし産院でK2シロップを与えなくても赤ちゃんに与えた方がいいのでしょうか?センターに問い合わせればいいのですが、どなたかの参考にもなればと思い質問させてもらいました。
村上先生
○○様がおっしゃいますとおり、今後体外受精の方はますます増えてくるのではないかと思います。この子に押し出す力があるのであれば、熱を出したり、子どのものかかる病気にかかったり、咳をしたり、鼻水をだしたりしながら、妊娠前後の負荷を乗り越えていけると思いますので、病気を恐れずにうまく乗り切っていただければと思います。
ご質問のソライナムの件ですが、できればホメオパスにかかっていただき、この子のタイミングで与えていただいたほうがいいと思います。それとK2シロップの件ですが、産院で与えなくてもいいのであればその代わりにそのレメディーを与えていただいてもかまいません。いずれの場合もレメディーをくださった方にご相談やサポートをしていただけるとご安心かと思います。
強調は筆者によるもの。
これを読んでまず分かるのが、ホメオパシー信奉者のK2シロップ忌避に対して、日本ホメオパシー医学協会側の人間がその問題点を指摘するどころかむしろ積極的にそれを煽り、その代替物としてホメオパシーのレメディを薦めている点である。
回答者の村上先生というのは日本ホメオパシー医学協会の村上寿美代氏のことであると思われる。
訴えられた助産師はK2シロップの代わりとしてレメディの砂糖球を与えていたが、
引用部から日本ホメオパシー医学協会=ロイヤルアカデミーオブホメオパシーでは、ホメオパシーのレメディがK2シロップの代替物になりうると教えていることが分かる。
おそらくビタミンKの投与が乳児に必要なこと自体は分かっていても、それが体内でどのような生理作用を持つ化学物質なのかを、
そしてただの砂糖球では決してその代替物にはなりえないことなどは分かっていなかったのだろう。
この助産師も、そして助産師にホメオパシーを教えた側の人間も。
私が日本ホメオパシー医学協会とその関係者を危険視する最大の理由がこれだ。
彼らは自分たちが何を理解していないかすら理解していないまま、人の健康を取り扱おうとしている。
さて、現状ではホメオパシー側からは特にアクションらしいものは出ていないのだが、
助産師会からはかなり残念な声明が出ている。
助産師提訴に関しての日本助産師会の非常にお粗末な対応 - Not so open-minded that our brains drop out.
読売新聞が報じ、前のエントリーで取り上げたように、助産師が病気の予防に必要なビタミン剤を与えなかったために女児が死亡してしまったとして女児の母親が助産師を提訴した。助産師は偽医療の一つであるホメオパシーの錠剤をビタミン剤の代わりに与えていたのだという。
それを受けて、社団法人 日本助産師会がPDFでコメントを発表したのだが、この内容がかなりひどい。
PDFは1ページ目が「ビタミンK2投与がなされず、児が死亡した件に関して」、2ページ目がが「東洋医学、代替医療等に関する日本助産師会の見解」と題されている。
続きはリンク先を読んでもらうとして、
このドキュメントに対する助産師協会トップページからのリンクタイトルは「代替医療に関する本会の見解」というもの。
助産師会内部には、
「ビタミンK2投与がなされず、児が死亡した件」という、他の助産師利用者にも起こりうる潜在的危険性を周知するよりも、
「東洋医学、代替医療等に関する日本助産師会の見解」について弁明することのほうが大事な人間がいるらしい。
二度とこういうことが起きないよう本会としても、強く会員に注意の喚起を促していきたいと考えている。
と書くのであれば、せめて問題の自然療法=ホメオパシーの名前くらいは出してもらいたいものだが。
<追記>
ホメオパシー側からの公式発表はまだないが、
内部では臆面もなくこんな説明をしている模様。
山口県の助産師提訴とホメオパシージャパンの反応。 - ホツマツ○ヱ。
全方位責任転嫁としかコメントのしようのない最低の対応だな。
◆関連リンク
ビタミンK問題: 助産院とホメオパシー
助産院は安全? ホメオパシー、レメディの問題>K2シロップの件
なぜ助産師がビタミンK投与を怠ったのか - とらねこ日誌
ビタミンK欠乏症問題 - Skepticism is beautiful
助産師提訴に関しての日本助産師会の非常にお粗末な対応 - Not so open-minded that our brains drop out.
やや日刊カルト新聞: ホメオパシー?で乳児死亡、母親が助産師を提訴(山口地裁)
助産師と代替医療 - 火薬と鋼
山口県の助産師提訴とホメジャ講習受講者らしき人の反応。 - ホツマツ○ヱ。
【疑似科学・ニセ科学・オカルト・トンデモの最新記事】
いや、そう勘ぐりたくなるくらい、無責任な書きかたですから。
人間の赤ちゃんを相手にしているという意識が助産師会にあるのか疑ってしまいますね。
自然界の動物でも出産時に「産む力・産まれる力」がなくて亡くなってしまう母親・赤ちゃんがいるわけで。人間は特別で、自然の脅威から守られていると思っているですかね。とても人の命を預かるプロとは思えませんね。
しかし、助産師のような人の命を扱う責任ある立場の人間が、このような有様なのは疑問ですね。
医療の目的は人を助けることであり、苦しめたり殺すことではないという原点に立ち帰って欲しいものです。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/images/s0905-7f1.gif
50年前、分娩場所が助産所や自宅から、病院や産婦人科医院(診療所)に代わり、母体死亡率が激減してます。
半世紀前に戻るのか????
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/images/s0905-7f1.gif
50年前、分娩場所が助産所や自宅から、病院や産婦人科医院(診療所)に代わり、母体死亡率が激減してます。
半世紀前に戻るのか????
ホメオパシーを全面的に信じてるわけでもないですし、まあ効けばいいなぁというその程度です。
でも何故だか我が家の野良猫出身の猫だけにはてきめんに効くんですよね。とても不思議です。
しかし今回の助産師の事件は酷いですね。全面的にホメオパシーのみを妄信的に信じ込み現代医療を否定するなんて・・。
この人たちに癌や糖尿病になっても病院に行かないんですか?とぜひ聞いてみたいです。
何事もほどほどがいいですね。
現代医療の補助的な意味でのホリスティック治療なら十分有りだと思います。
納豆にはビタミンKが多く含まれていると。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100825-00000011-cbn-soci
一瞬この記事を見たときポカーンとなりました…
子供にも予防接種を与えず、ホメを与え、医学に対して基本的に不信な姿勢です。
予防接種のみならず、明らかに風邪を引いて高熱を出しているいる子供を、「満月のせいかしら?」とか、「がんばって排毒してね。」と治療すらも受けさせません。
不幸中の幸いなのはその子が今のところ元気な事ですが、風邪をひいていても構わず集まりに参加してくるので、移される我が子は溜まったのものでありません。
本人は良かれと思っているので、周りにもホメを進めてきます。
最近の報道は、日本のマスメディア特有の過熱感に、やや冷めた目で見ざるを得ませんが、既にカルト化していると思われる、ホメオパシーの蔓延を防ぐにはショック療法も必要かもしれませんね。
全新生児の4000人〜5000人に1人、母乳の場合で1700人〜2200人に1人ということです。
やったことに対して責任を感じるのならまだしも、自分は悪くない、患者が悪いとか言い出す連中を見ると、腹の虫が治まりません。
ホメオパシーに否定的ブログを展開されていた方のプロバイダに、訴訟の話をしたんですって。ホメオパシー関係の学会のどこだったかが。