何年か前に話題になっていた血液サラサラ詐欺に関連して、健康被害の可能性を指摘するエントリだ。
【注意喚起】血液サラサラの写真撮影を病院以外でされちゃった方へ :: Archives
最近になって気がかりな話が伝わってきた。血液サラサラの写真を撮るためには、針などでわずかに傷をつくって(耳たぶや指など)血液を採取するといったことをするのだけど、この採血の器具を使い回ししていた業者が居たという話でである。ごくわずかの傷であっても、他人の血液に触れた器具を使うと、感染症の危険、例えばポピュラーなところでは、C型肝炎に感染する危険がある。
マイナスイオングッズ、及びその他の健康グッズの売り込みを受けた際に、業者に勧められて、医療機関以外で血液サラサラの写真を撮ってもらった覚えのある方は、医師の診断を受けることをお薦めする。
針等の使い回しをしていた業者が中には混じっていて、「マイナスイオンで健康に」などと言っている間に、C型肝炎に感染させられている可能性が否定できない。C型は放っておくと命に関わるので、早めに発見して手を打たなければならない。他の感染症についても同様である。
一応念のために言っておくと、まだ具体的に犠牲者の存在が判明しているわけではなく、危険性が指摘された段階である。
しかし私の個人的な予測としては、この恐れが現実に起こっている可能性はかなり高いとみている。
この採血器の使いまわし問題については、血液サラサラとは直接関係なく2008年頃に医療事故として大きなニュースになったので、覚えている人もそれなりにいるかも知れない。
事の発端はイギリスでB型肝炎を発症して死亡した二人の患者に、採血器の使いまわしが原因である可能性が疑われたことである。
採血器と言っても注射器ではなく、指先を針で突いて少し血を出させるための器具なのでそこのところを間違えないように。
また、使いまわしと言っても針自体を使いまわしたのではなく、下の図のキャップの部分の使いまわしである。
厚生労働省:採血用穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いについて
可能性はそれほど高くないものの、このキャップの部分に体液が付着して感染症を伝播する恐れが指摘されたため、2006年3月に厚労省から上記のキャップが交換されないタイプの採血器使いまわし禁止の通達が出されたのだ。
しかしこの通達はうまく伝わっておらず、2008年に行われた状況調査では、13000を超える病院や診療所でキャップの使い回しがそのままになっていることが判明。
さらには、針の使いまわしすら行っている施設が3施設発見された。
採血器具使い回し施設1万3千カ所 厚労省、該当施設名を公表 - 47NEWS(よんななニュース)
血糖値測定などに用いる採血器具の使い回し問題で、厚生労働省は6日、同省が所管する全国の医療関連施設のうち、1万3408カ所で不適切な使い回しをしていたとする調査結果を発表した。
器具は微量採血用で、針を指先に刺すタイプ。使っていた医療機関のうち病院では65%、診療所で48%が使い回しており、国による周知が現場に徹底されていない実態が浮き彫りになった。
針の使い回しは3施設で、ほかは「先端キャップ」と呼ばれる針周辺部。健康被害は確認されていない。
同省は「キャップは血液に直接触れないためリスクは低いが、B型肝炎感染の恐れが否定できない」として該当施設名を公表。採血を受けた人に、医療機関などへの相談を呼び掛けている。
調査は5月から7月まで、すべての病院(8919施設)や診療所(10万650施設)などを対象に実施。
当然これは大問題になった。
特に糖尿病患者のような、定期的に採血を受ける一部の層にとってはかなり影響度の大きいニュースだったので、家族にそういう人の居る家庭では、耳にしたこともあるのではないだろうか。
しかしその一方で、医者ですらない業者が血液サラサラ詐欺で適当な採血を行っている問題については、当時完全にスルーされていた。
血液サラサラ系統の悪徳業者の中には、下の引用記事のように平気で医師法違反を行うような連中もいて、危険度はよほど高かったのだが。
「ドロドロ血」商法で数十億円集金 医療会社を強制捜査 警視庁 6月12日8時0分配信 産経新聞
医師や看護師の資格がないのに採血して「あなたの血はドロドロ。病気になりやすい」と診断し、高額な会員制サービスに加入させたとして、警視庁生活環境課が、東京都千代田区の医療サービス会社を医師法違反容疑で家宅捜索したことが11日、分かった。同社はグループの不動産会社を使い、採血に応じた高齢者らから中国への投資も募り、数十億円を集めたとみられる。健康と資産運用をセットにした新手の商法の被害拡大を防ぐため、警視庁は強制捜査に踏み切った。
生活習慣病とも関係する血の流れ具合をイメージした「ドロドロ血」問題は健康番組などで注目され、同社もテレビを参考に4年前から採血を始めた。「ドロドロ血をサラサラにする」と高額器具を売りつける商法に全国の消費者センターには相談が相次いでいるが、強制捜査は異例。
「ドロドロ血商法」で女幹部社員逮捕 10月2日12時7分配信 産経新聞
東京都千代田区の医療サービス会社「フォーチュンパシフィックホールディングス」が「あなたの血はドロドロ」と無資格で診断していた事件で、警視庁生活環境課は2日、医師の資格がないのに従業員に採血をさせたとして、医師法違反の疑いで、同社幹部、沢祥子容疑者(59)=江東区森下=を逮捕した。「指示していない」と容疑を否認している。生活環境課は実際に採血を担当した従業員5人も立件する方針。
調べでは、沢容疑者は平成16年12月から18年8月まで、同社が運営する「プライマリーケアメインセンター」(千代田区)で、無資格の従業員5人に「血液画像分析士」と名乗らせ、52〜83歳の顧客24人から採血させた疑い。
この手の連中も2008年のニュース以降は針の交換だけはそれなりにちゃんと行うようになったものの、未だ徹底されているとは言い難い。
2008年以前の危険な検査者に対しても、何ら警告も行っていない。
ろくな感染防御手段も無いまま他人の血液に触れていたわけだから、業者や販売員達自身も相当なリスクに晒されていたわけなんだが。
◆ハイリスクグループの条件
感染危険度の高いグループに当てはまる条件をまとめてみた。
条件の該当が多いほど危険度が高い。
・血液サラサラの検査を受けたことがある。
(呼び方はライブブラッド分析(LBA)、血液サラサラチェック等のパターンがある)
・検査を受けたのは2008年8月以前である。
(医療機関での使い回し発覚前のため、業者が厚労省の勧告を知らずに使い回しを行っていた危険度が高い)
・採血に使い捨て型ではなくペン型の採血器を使っていた。
(採血器の種類→血糖自己測定(SMBG)-穿刺器具と血糖自己測定-糖尿病NET)
・採血時に手や器具の消毒を行っていなかった。
(使い回しが起こっていた場合に感染リスクを上げる要因。なお肝炎ウイルスはアルコール消毒だけでは死滅しない。)
・ペン型の採血器で針の交換をしていなかった。
(これの該当は一発アウト)
・ペン型の採血器で、キャップ部分の交換をしていなかった。
(針の使いまわしに比べるとやや危険度は下がるが、キャップの消毒が行われていない場合は同様に危険)
・採血を行ったのは自分ではなく業者(非医師)である。
(血液画像分析士や整体師、鍼灸師等も無資格なのでアウト。医師法違反かつ使いまわしの危険も高い)
血液サラサラ詐欺に引っ掛かった、もしくは検査だけでも受けた人間は、少なく見積もっても10万人単位で存在し、もう一桁増える可能性もある。
特に危険が大きいのは、この詐欺のメインターゲットにされた50〜80代の中高年層で、2008年のニュース後も、下手をすると自分がハイリスクグループであることにすら気づいていない恐れがある。
この層にはウェブでの呼びかけでは効果が薄いので、この年代の親を持つ読者は、それとなく一度自分の親に確認を行ってみることをお勧めする。
◆関連リンク
痛いテレビ跡地: 「血液サラサラ」を広めた犯人はNHK
歯科医療未来へのアーカイブスX : 血液サラサラは顕微鏡で細工、元営業マンが商法を暴露
血液サラサラ - Wikipedia
【疑似科学・ニセ科学・オカルト・トンデモの最新記事】
apj さんの blog への訪問者がこちらにも回ってきて、採血器のこととか、条件のまとめとかの付加情報を読まれるとよいと思ってのことです。
トラックバックができなくてすみません。当方のシステムの不備です。
今回のエントリーは、業者側からの内部告発について相談されたというのがきっかけです。このため、ソースを明らかにできませんし、私の手持ちの情報だけでは業者名を出すことができません。しかし、シャレにならない危険性があることは確かなので、注意喚起の情報を広く世の中に行き渡らせる必要があると考え、エントリーを上げました。
本当は、流行らせたマスコミが後始末に協力して、検査を受けるよう呼びかけてくれると一番良いのですが、流行らせた時の無責任さからみて、期待できないでしょうねぇ(溜息)。
このサイトの<a href="http://www.asahi-net.or.jp/~PP3T-ITN/kanenkensa.htm">データ</a>を見ると、C型肝炎ウイルスのキャリアは全国民の1%くらいいると考えられているようですね。
血液サラサラ検査を受けちゃった方が10万単位でいるとなると、その中に1,000人単位でキャリアがいたことになります。
そうなると採血のせいでB・C型肝炎に感染した人確実にそれなりの数いそうで怖いですね。
B型は感染予防のワクチンがあるし、C型も早期発見早期治療でガン化やがんの進行を遅らせられるようですから、早く多くの人がこの事件に気づいて検査を受けてくれると良いのですが。
紹介どうもありがとうございます。
TBは打っておいたんですが、弾かれたようですね。
>apj さん
内部告発が元ネタだとそれなりに確度は高そうですね。
あと実際問題として、一番リスクが高いのは検査を行っていた業者の末端の人間なので、その辺も踏まえて少しエントリを修正しておきました。
マスコミは多分公的機関が動くレベルになるまで期待できないかと。
>modoki さん
母数を考えると、それなりの数の被害者が出ていてもおかしくないですよね。
一番感染リスクが高いのは、実際に検査を行っていた業者の末端の人間ですが。
最近の血液検査で,MCV=100 ですからね.
「赤血球がでっかい」派でしょう.
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E6%A4%9C%E6%9F%BB#.E6.A0.84.E9.A4.8A.E7.B4.A0.E3.81.AB.E9.96.A2.E3.81.99.E3.82.8B.E8.A8.BA.E6.96.AD
さらさら派にも,どろどろ派にも,分別
できないです.これだけでは...
以前見たテレビでは、ガラスに挟んだ血液の量が多いと数珠繋ぎになるし、血液が少ないと固まらないということを紹介していました。
そういう性質を利用して一回目には血液を多めにして「ほらドロドロでしょ」、何らかのインチキ商品を使ってみせた後で二度目の採血で血液の量を少なくしてサラサラ流れる場面を見せているということで・・・。