2010年01月22日

インフルエンザのユニバーサルワクチンの開発状況を調べてみた

先日インフルエンザ関連のトンデモを切ったので、そういえばユニバーサルインフルエンザワクチンの開発状況はどうなっているだろうかと気になって調べてみました。

各所で結構話題になっていたから知っている人も多いと思うのですが、ユニバーサルワクチンとは、ウイルスの型によらず一定の効果を見込むことが可能なワクチンで、インフルエンザのような変化の早いウイルスに対しても、一種のワクチンで恒常的な免疫を得ることが期待されます。
このワクチンが実用化されれば、公衆衛生担当者も毎年今年はどの型が流行るだろうかと頭を悩ませずに済みますし、我々も一度のワクチン接種でインフルエンザとおさらば出来ます。
英国でユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンのテストが始まった(インフルエンザ) / 科学ニュースあらかると - 新型インフルエンザ,ユニバーサル・ワクチン
ユニバーサルなフル・ワクチン “ACAM-FLU-A”  - 感染症診療の原則

現在複数の企業・機関がこのユニバーサルワクチンの開発を行っており、有力な候補と見られていたのが、
上に紹介した二つの記事で取り上げられているAcambis社とオックスフォード大学のワクチンでした。
・Acambis社のACAM-FLU-A(2008年にphase 2開始)
・オックスフォード大学のユニバーサルワクチン(2008年にphase 1開始)
Universal ‘flu vaccine enters clinical trials | Blog | Futurismic

ここで『でした』と過去形で書いたのは、さっきGoogleNewsで調べてみたら、
この二つを追い抜いて既に新薬出願まで行ったユニバーサルワクチンがあるからです。
 
 

そのワクチンとは、Inovio社のVGX™-3400(新薬承認申請出願済み)です。
Inovio » Products » Infectious Disease DNA Vaccines » Inovio Approach for Universal Flu Vaccine
Dr. Joseph Kim leads the battle against the flu | San Francisco Examiner

このワクチンが前者二つと決定的に異なる点は、前者がインフルエンザウイルスの抗原タンパク質の保存領域(ウイルスの生存や増殖に不可欠な構造を持つため変化できない領域)をターゲットとして使用するワクチンであるのに対し、このワクチンがDNAワクチンである点です。
DNAワクチンとはこんなもの。
遺伝子(DNA)ワクチンの作用機序を解明(DNAワクチンの本格開発にはずみ)
DNAワクチンとは、プラスミドDNAと呼ばれる細菌由来の環状DNAに抗原を発現する遺伝子を組み込んだもので、生体に投与すると、その抗原に特異的な免疫反応を誘導します。従来のワクチンに比べて、製法が簡便でコストも抑えられるため、各種感染症やがん、アレルギー疾患などに対する新たなワクチンとして広く研究され、その臨床応用が世界レベルで進んでいます。ヒトではまだ認可されたものはありませんが、動物用ワクチンとしてウマの西ナイルウイルス感染症、養殖サケのウイルス感染症、ペット犬の悪性黒色腫(メラノーマ)に対するDNAワクチンが北米で認可され、実際に使用されています。

ちなみにこのDNAワクチンの作用メカニズムの解明は、阪大の審良(あきら)静男先生の二年ほど前の仕事。
この人は免疫学分野の世界的な権威で、いつノーベル賞を取ってもおかしくない人です。

このDNAワクチンのメリットは、従来のワクチンに比べると圧倒的に簡単かつ低コストで製造できること。
さらに製造にかかる時間も短くて済みます。
なにせモノがプラスミドなので、厳重に滅菌管理したBSL3のラボで生ウイルスを扱わずとも済み、製造コストも低いのです。
これまでは外来DNAがヒトの体内ではあっさり分解されてしまう問題のために、DNAワクチンは一部の動物向けにしか存在しませんでしたが、Inovio社は独自技術でその問題を解決した模様。

Inovio » Products » Infectious Disease DNA Vaccines » Inovio Approach for Universal Flu Vaccine
pvax_2999_bp.jpg
・DNAワクチンはインフルエンザの可変的領域HA(H1, H2, H3, および H5 (Avian))に加えて、NAとM2e-NPの保存領域を標的とする。
・全ての構成要素はSynCon™技術(DNAワクチンプラットフォーム)によって開発された。
・概念研究の証明は、動物モデルにおいて免疫原性とH1とH5 ウイルスからの保護を示して完了した。
・長期の免疫への可能性。
・毎年のワクチン治療をあらかじめ用意する。



ちなみにDNAワクチンによるユニバーサルインフルエンザワクチンの開発は確か別の会社もやっていたはずと思って調べてみたら、イギリスのパウダーメッド社というところも似たようなことをやってますね。
「DNAワクチン」はインフルエンザ予防を変えるか | WIRED VISION
こっちは2006年にファイザー社に買収された後ニュースが無いのでどうなったのか良く分かりません。
他にもBiondVax社というところが昨年フェーズ2を終えた模様。
Successful Phase I/II Clinical Trial for BiondVax Pharmaceuticals' Universal Flu Vaccine

いずれにせよ、どの会社でもいいので早くこの技術を実現してもらいたいものです。
 
posted by 黒影 at 00:05 | Comment(2) | TrackBack(0) | バイオニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 本日,初めてこのブログを知りました.福岡ハカセ関連で(笑)
    化学を専門とする研究者ですが,バイオ関連も勉強してみたいと感じ,色んな本を読み漁っているところです.もちろん福岡先生の本もたくさん読みましたが,一人の著者だけに傾注するのは個人的にイヤなので,その辺りを批判しているブログにも目を通していました.
    専門外の事ですので,本日のお話も殆ど理解できませんでしたが,今後とも興味深く拝見させて頂きます.
  2. Posted by binolbinol at 2010年01月22日 23:17
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  4. Posted by メンズ サイフ at 2013年07月25日 10:04
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