2009年09月05日

新型インフルの重症例をリレンザの静脈注射で回復させた事例

新型インフルの重症例をリレンザの静脈注射で回復させた事例が昨日のニュースで結構大きく取り上げられていたので、うちでも取り上げてみる。
学校の夏休みが明けてこれから日本でも本格的な流行が予想されるので、重症化時にとりうる対処策が一つでも増えるのはありがたいことだ。

吸入薬リレンザを静脈注射、インフル重症患者が劇的に回復 国際ニュース : AFPBB News
【9月4日 AFP】新型インフルエンザA型(H1N1)に感染して入院していた英国のがん患者の女性(22)が、吸入用抗ウイルス薬リレンザ(Relenza)を静脈注射するという異例の方法で生命の危機から救われたとの報告が、4日の英医学専門誌「ランセット(Lancet)」に掲載された。

 女性はリンパ組織に悪性腫瘍(しゅよう)ができるホジキン病を患い、化学療法を受けていた。そのため免疫系が衰弱し、H1N1ウイルスに対する防御が弱まっていた。
 
 女性は7月、息切れと両肺に水がたまるという症状で英ロンドン(London)のロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ病院(University College Hospital)に入院。インフルエンザ治療薬タミフル(Tamiflu)も広域スペクトル抗生物質も全く効き目がなく、入院3日目には人工呼吸器が必要になった。

 医師団はリレンザを認可された吸入方式で投与したがやはり効き目がなく、その後の2週間で次第に病状は悪化した。

 生死の境目をさまよう女性に対し、医師団はリレンザ製造元の製薬大手グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の特別協力を得て、リレンザを静脈注射するという賭けに出た。すると女性の病状は劇的に改善し、48時間以内には人工呼吸器を外し、集中治療室から一般病棟に移れるほどに回復したという。(c)AFP


論文はこれ。
H1N1 pneumonitis treated with intravenous zanamivir : The Lancet
Dr I Michael Kidd FRCPath a , Jim Down FRCA b, Eleni Nastouli FRCPath a, Rob Shulman DHCPharm b, Paul R Grant PhD a, David CJ Howell MRCP b, Mervyn Singer FRCP b
On July 8, 2009, a 22-year-old woman, neutropenic after chemotherapy for Hodgkin's disease, was referred to ICU with 3 days’ (d) increasing dyspnoea, bilateral chest infiltrates, and laboratory-confirmed pandemic H1N1 2009 influenza virus infection not responding to oseltamivir 75 mg twice daily and broad-spectrum antimicrobials (meropenem, teicoplanin, and caspofungin). No other organisms were detected from blood or respiratory tract. Deterioration necessitated invasive ventilation from ICU d 3 ...

ニュースに対してはすでにあちこちで称賛の声が挙がっていて、もちろん医師はGoodJobなんだけれど、私はこのニュースをもう少し掘り下げてみようと思う。
実は新型インフルに世界で初めてこの治療法を試したのはこのロンドン大学病院のチームではなく、オーストラリア、メルボルンのオースティン病院である。
おそらくこの論文の著者らはそれを知っていたから、わざわざ認可前の静脈注射用リレンザを取り寄せて治療を行ったのだと思う。
 
 
さて、この新型インフルにリレンザを静脈注射するという方法は、8月にオーストラリアで初めて試されたものだ。
その時の患者は、新型インフルの重症例で30日以上ICUに入院し、回復が絶望視されていた。
場所はメルボルンのオースティン病院で、患者はぜんそく持ちの20歳の男性だった模様。
AdelaideNow... Experimental drug helps save critical swine flu victim
GIVEN virtually no hope of survival, Ivan Luong has stunned doctors after recovering from swine flu with the help of a world-first experimental drug.

As the 20-year-old left intensive care last night following a marathon 38 days – including 31 on breathing machines – a team from Melbourne's The Austin hospital were still coming to terms with how they had saved the chronic asthmatic.

Via. リレンザの注射剤で救命したswine flu症例(オーストラリア) - 感染症診療の原則

この患者がどれだけ重症だったかと言うと、肺に水がたまりタミフルの経口投与も不可能で、30日間ICUで人工呼吸器につながれっぱなしという状態だったとのこと。リレンザの静脈注射が行われたのも、薬剤の投与手段がそれしか残されていなかったからだという。
With an intravenous drip the only way of getting medication into Mr Luong, the team decided to try a liquid form of flu drug Relenza – a highly experimental formula not registered anywhere in the world, which had to be flown in from the U.S. where it had been produced for clinical trials unrelated to swine flu.

最後の手段として投与されたリレンザ自体、本来吸入薬で、静脈注射ができるものではない。
しかしたまたまその時そのメルボルンの病院には、別の臨床試験のために作られた液剤のリレンザが輸入されていた。
もちろん新型インフルに対するリレンザの静脈注射はこれが世界初の試みであり、成算はあっても博打に近い。
しかし医療チームと患者は賭けに勝った。
この記事が出た時点ではまだぜんそくの症状が治まっていないものの、患者は38日間にわたる闘病生活から脱することができたようだ。
元記事には人工呼吸器を付けながらも親指を立てる患者の写真が載っている。


オーストラリアの事例が既に論文になったのかどうかは知らないが、今回こうして治療例の二例目が出てこうして大きく取り上げられたことで、世界で新型インフルと戦う医療者と患者の双方に新たな希望が一つ増えた。
治験段階の薬をそう多量に用意する事はできないだろうが、そこはグラクソ・スミスクラインに頑張ってもらうとして、
とにかくオースティン病院のチームもロンドン大学病院のチームもGoodJob。
posted by 黒影 at 17:40 | Comment(7) | TrackBack(2) | サイエンスニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. こういうのって当然保険適用外ですよね。
    私はどちらかというと混合診療反対なんですが…。
    有効だという症例が他国で増えるとひょっとして世論にインパクトがあったりして…。

    ところで、二箇所ほどリレンザをタミフルとtypoしてる箇所があるような。
  2. Posted by Cru at 2009年09月06日 15:06
  3. >Cruさん
    ご指摘感謝。
    修正しました。

    日本でこのシーズンこの治療法が行われることがあるとしたら、保険適用外になるでしょうね。
    命には代えられないとはいえ、この治療法を選択する時点で間違いなくICU入りかつ他に打つ手がない状況なので、その分も保険適用外になると考えると目が飛び出るような額の治療費になりそうです。
  4. Posted by 黒影 at 2009年09月07日 20:25
  5. そうなんですよね。
    目が飛び出るような額の治療費>

    それでもなお反対だったんですが(海外の治験も反映して迅速に認可できる体制を前提で)、
    以下のブログを読んでちょっと揺れてます(医療周辺ではありますが)。

    『学習障害の「科学技術」「教育」「気づき」』
    http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20090908/1252438086

    アメリカ人がべらぼーな医療費を払ってくれてる恩恵を巡り巡って日本人も受けてる面はあるのかなぁと。そして製薬会社の競争力という点ではアメリカは有利なのかしらんと。
  6. Posted by Cru at 2009年09月11日 23:24
  7. 「目が飛び出るような額の治療費」
    どれほどを指しているのでしょうか。
  8. Posted by kaoru at 2009年09月15日 01:20
  9. 古い記事だけどこんな感じみたい

    http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/nedan/20060915ik0b.htm

    全額自腹になるなら「治させたくない」人が続出しそう。
    ま、静注用リレンザなんて簡単に手に入るものじゃないでしょうから心配するだけ無駄だけど
    そのうち「タミフルをあぶりで吸入して生還」なんてニュースも出てきたりしてね
  10. Posted by メタボ at 2009年09月15日 19:51
  11. 返答ありがとうございました。
    私が思った実費高額
    命が係っても300万限度
    1000万になると払えても 助かるとコマルが本音。
    負債は自分の内で納めたいです。
  12. Posted by kaoru at 2009年09月15日 20:43
  13. メタボさん
    ま、静注用リレンザなんて簡単に手に入るものじゃないでしょうから心配するだけ無駄だけど>
    混合診療認めさせたいどっかの圧力団体がマスコミに働きかけたらわからんですよ…と、心配性な気を回して書いてしまいました。

    全額自腹になるなら>
    さわぎになれば、きっと、厚生労働省が(訴訟リスクも省みず)迅速に認可してくれるはず。
    とかいって、マスコミのタミフルの副作用「祭り」はなんだというorz
  14. Posted by Cru at 2009年09月16日 00:20
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/127362084
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

幻影随想: 新型インフルの重症例をリレンザの静脈注射で回復させた事例
Excerpt: 幻影随想: 新型インフルの重症例をリレンザの静脈注射で回復させた事例
Weblog: oryzaの環境備忘録
Tracked: 2009-09-05 21:59

吸入薬リレンザを静脈注射、インフル重症患者が劇的に回復
Excerpt: 【9月4日 AFP】新型インフルエンザA型(H1N1)に感染して入院していた英国のがん患者の女性(22)が、吸入用抗ウイルス薬リレンザ(Relenza)を静脈注射するという異例の方法で生命の危機か..
Weblog: 健康情報 気になるニュースをお伝え
Tracked: 2009-09-06 09:55
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。