Resistant wheat to tackle destructive fungus - environment - 20 March 2009 - New Scientist
日本ではそもそも小麦さび病Ug99についてほとんど知られていないので、まずはこの病原菌の説明から。
◆さび病とは?
さび病は古くから多くの作物の病気として知られていた病原性のカビ(真菌)で、サビキン目と呼ばれる、植物に対する絶対寄生性を示す担子菌のグループに属している。この病原菌は胞子によって増殖するため感染性が強く、広い範囲の農作物に大きな被害を与えることで恐れられている。この菌に感染すると、その植物はまるで鉄さびを噴いたような姿になり、やがて枯れてしまう。
さび病に感染した小麦の写真を下に示す。
Photo from Stem rust - Wikipedia, the free encyclopedia
現在問題となっている小麦さび病Puccinia graminis Ug99は、1999年にアフリカのウガンダで初めてその存在を確認された新種の小麦さび病(ゆえにUg99)で、既存の大半のコムギ品種の持つさび病耐性を克服し強い病原性を示す。
その影響は致命的で、影響地域では最悪の場合収穫量が3割程度まで落ち込んでしまう。
この病気に対抗できる有効な品種が存在しなかったため、Ug99は偏西風に乗ってじわりじわりとその勢力範囲を広げ、ウガンダからケニア、エチオピアへと広がり、とうとう紅海を渡って中東、西アジアへと広がってしまった。
おまけに最悪なことに、影響範囲拡大の過程で、既存のコムギ品種が持つ他の二つのさび病耐性遺伝子まで克服する方向に進化しながら。
関連:小麦を襲うカビ、パキスタンまで拡大か? 国際ニュース : AFPBB News(2008/03/15)
新品種を作出し十分な供給を可能にするには短くても5〜10年の歳月が掛かる。
このままUg99の脅威が世界の穀倉地帯に広がった場合、世界の食糧供給にさえ影響を及ぼす恐れさえあっただけに、対策が間に合いそうなことは喜ばしい。
◆新品種の開発
今回Ug99耐性品種を開発したのは国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)。
「奇跡のコムギ」と呼ばれる世界に緑の革命を起こした品種を作り上げた、農作物の品種改良において多くの実績を持つ国際研究機関である。
国際トウモロコシ・コムギ改良センター - Wikipedia
CIMMYTは、発展途上国におけるトウモロコシとコムギの生産性向上ならびに安定生産に関する品種・栽培技術の開発・訓練を行う非営利研究機関である。メキシコにある本部の他に、世界各地に設置した事務所を通じて100カ国以上の国と繋りを持っている。
CIMMYTは、メキシコ政府およびロックフェラー財団の後援によって1943年にメキシコで開始された実験的な研究計画に源流を持つ。この研究は、ノーマン・ボーローグらが「奇跡のコムギ」と後に呼ばれる半矮性メキシコ系短稈多収品種群を育成し、緑の革命と呼ばれる成果を挙げた。
1963年に研究の母体はCIMMYTに再編成され、1971年に国際農業研究協議グループ(CGIAR)が結成されると、その傘下研究機関となった。現在の設立母体は、CGIARメンバー各機関である。
主な事務所設置国は、アフガニスタン・バングラデシュ・中国・コロンビア・エチオピア・インド・イラン・カザフスタン・ケニア・ネパール・トルコ・ジンバブエである。
小麦さび病は過去においても何度か農業の脅威となっており、1960年代にやはりCIMMYTがさび病耐性を持つ高収量株を作出して、それ以来Ug99が現われるまでは脅威でなくなっていたという歴史を持つ。
復活したさび病の脅威に立ちはだかるのがまたしてもCIMMYTという点に、歴史の面白さを感じる。
CIMMYTは昨年、ビルゲイツ財団から2700万ドルの資金援助を受けて"Ug99耐性コムギ品種育種緊急プログラム"を実施し、Ug99耐性品種"Kingbird"といくつかの地域に適応した高収量品種を掛け合わせ、アフリカのUg99汚染地帯でのテストを行った。
結果は大成功で、Ug99に耐性を持つだけでなく、親株の高収量品種すら上回る収穫を得ることが出来たようだ。
今後は十分な種子の供給を行える体制さえ整えれば、現在Ug99の脅威に晒されている国々に新品種を行き渡らせることが出来る。
論文を見つけたのでついでに載せておく。
Current resistance sources and breeding strategies to mitigate Ug99 threat
条件次第では1ヘクタール当たり8トン近い高収量株か。これなんて緑の革命の再来?
もっともこのプロジェクトも順調ではなかったようで、昨年はじめにアメリカ政府からの資金援助を一旦打ち切られており、プロジェクトは資金難に陥っていたようだ。
もしゲイツ財団からのファンドがなかったら、この成果はまだ生まれていなかったかもしれない。ゲイツGJ。
(なお、アメリカ政府はその後批判に晒されて資金援助を再開した)
Bill Gates boosts fight against killer wheat fungus - health - 02 April 2008 - New Scientist
◆おまけ
関連ニュースを見ていたらボーローグ先生の元気そうな御姿の写真が。
Foundation Grant Helps Advance Fight Against Wheat Disease
この人はもう95才越えてるはずなのに、いつも元気に世界中飛び回ってて本当にすごい。
虫じゃなくカビなんですね。
ご存知かもしれませんが、Nature Newsでたまたま見つけたので、一応貼っておきます。
http://www.nature.com/news/2009/090401/full/news.2009.227.html?s=news_rss
日本では、新しい耐性種を植えてイタチごっこになる道よりも、まず汚染源を排除する取り組みをやりますね。
梨のサビ病(赤星病)みたいに、イブキ類が中間宿主になるとわかってる場合は条例でイブキ類の植樹を禁止するとか、実際にやってるし。
人間からカビ=酵母を除去するのは大変そう
あとはもちろん胞子による「空気感染」です
風邪を全滅させる位の労力と費用は必要かと