今日のエントリで南アフリカのAIDS状況のプレゼンを取り上げていた。
via 忘却からの帰還: 短寿命化する南アフリカで
Pandemics Activity 3 Strategy 2 AIDS Africa Ppt Presentation
アフリカのサハラ以南のAIDS事情はもう酷いの一言に尽きるんだが、
どれくらい酷いのかを一目で理解できる良いグラフがこのスライド資料にあったので、
関連記事のまとめも兼ねてうちでも紹介してみる。
<追記>統計データを紹介しているサイトへのリンクを最後に追記しました。
なお、この記事に興味を持ってくださった方は、以下のエントリも合わせて見ていただけると嬉しいです。
幻影随想: Survival―生きる―
なお、この記事に興味を持ってくださった方は、以下のエントリも合わせて見ていただけると嬉しいです。
幻影随想: Survival―生きる―
まず一枚目。
アフリカサハラ以南の国家の平均寿命の推移。
グラフを見れば一目瞭然だが、アフリカ南部の複数の国家で現在AIDSの為に猛烈な勢いで平均寿命が下がっている。
原因は子供や若い世代でAIDSを発症し死亡する人間が増えているため。
ここ20年ほどの間に、南アフリカで13歳、ジンバブエで17歳、最も酷いボツワナに至っては25歳以上平均寿命が下がっている。
第二次大戦後、栄養・医療事情の改善によってアフリカの平均寿命はかなり伸びたのだが、HIV/AIDSが蔓延している地域では再度急激な低下がはじまり、「忘却からの帰還」のエントリで取り上げられているように社会に深刻な影響が出ている。
二枚目、各国のHIV感染率 in adults。
アウトブレークの臨界点は1990年前後で、このあたりの年を境に急激に感染率が上昇している。
このとき初期制圧に失敗した国が、現在劇的なAIDS患者の増加が起こっている国、すなわち最初のグラフで平均年齢が下がっている国々だ。
こちらのグラフはアフリカの主な死因のパーセンテージを示したもの。
1. HIV/AIDS : エイズ : 22.6%
2. lower respiratory infection : 下気道感染症 : 10.1%
3. Malaria : マラリア : 9.1%
4. Diarrhoeal disease : 下痢性疾患 : 6.7%
5. Perinatal conditions : 周産期疾患 : 5.5%
6. Measles : はしか : 4.3%
7. Tuberculosis : 結核 : 3.6%
8. Ischaemic Heart disease : 虚血性心疾患 : 3.1%
9. Cerebrovascular disease : 脳血管疾患 : 2.9%
10. Maternal conditions : 妊娠疾患 : 2.3%
2位に大差をつけてTOPに立つのがAIDS。現在アフリカでは5人に1人がAIDSで死ぬ。
それ以外にも下気道感染症、下痢性疾患、マラリア、はしか、結核など、感染症起因の死を合算すると軽く5割を超える。
先進国とは違い、これらの国々では未だ感染症が社会の脅威なのである。
…でもって、別の意味で脅威なのが、これらの国々の電波に頭を犯された政治家達。
例えばジンバブエでは、感染症にろくな対策もとらず先進国からの援助も断る一方で、こんなことを言っていたり。
はてなブックマーク - CNN.co.jp:「コレラは旧宗主国、英国による大量虐殺」 ジンバブエ閣僚
コレラ被害が増加し続けているアフリカ南部、ジンバブエのヌドロブ情報広報相は13日まで、コレラの感染拡大は「計算され、人種攻撃的な、米国や欧州各国の協力を得た旧宗主国、英国の力によるもので、我が国の侵略を目指したものだ」と強く非難した。
南アフリカ共和国では最近ようやく陰謀論者が政権から追い出されてまともな対策がなされるようになったが、
それ以前は「AIDSはビタミン不足が原因」と信じ「抗レトロウィルス薬よりレモンとガーリックが有効」と主張し全力でAIDS治療の足を引っ張るような人間が厚生大臣に居座っていたり、
いわゆるHIV否定論と呼ばれる、「HIVはAIDSの原因でない」と主張するニセ科学の信奉者が大統領だったりと散々な状況で、ろくな対策もされないままパンデミックが野放しにされてしまった。
忘却からの帰還: ニセ科学「AIDS再評価運動」〜南アフリカの場合〜
忘却からの帰還: HIVはAIDSの原因ではないという南アフリカ大統領は一歩も引かない
南アフリカの不幸は、アパルトヘイト撤廃の頃にHIV/AIDSの流行が拡大したこと。撤廃と和解という課題をかかえた最後の白人政権de Klerk大統領[1989-1994]と最初の黒人政権Nelson Mandela大統領[1994-1999]はAIDS対策に気が回らず、妊娠女性のHIV感染率は25%を上回ってしまった。
さらに、不幸だったことは、現政権Thabo Mbeki大統領[1999-]が、HIVはAIDSの原因ではないというAIDS再評価運動な考えを信じていること。そしてMbeki大統領は政権発足時に、ガーリックやレモンでAIDSが防げるのだと主張するDr Manto Tshabalala-Msimangを厚生相に任命したこと。
そのためAIDS対策は遅滞し、その結果が、国民のHIV感染率は10%を超え、妊娠女性の感染率30%になるという事態だった。
忘却からの帰還: 南アフリカのHIV否定論者たちの退場
陰謀論を撒き散らすのはアホな政治家だけじゃない。
忘却からの帰還: HIV/AIDS陰謀論なモザンビークの大司教
人口の17.5%がカトリックであるモザンビークで、カトリックの指導者Maputo大司教Francisco Chimoioが次のように語った。"Condoms are not sure because I know that there are two countries in Europe, they are making condoms with the virus on purpose," he alleged, refusing to name the countries.
「コンドームは確実ではない。何故なら、私は欧州の2か国が、故意にウィルスを感染させたコンドームを製造していることを知っているからだ」と大司教は主張したが、2か国の名前を明らかにすることを拒否した。
"They want to finish with the African people. This is the programme. They want to colonise until up to now. If we are not careful we will finish in one century's time."
「彼らはアフリカ人を滅ぼしたいのだ。これは計画である。彼らは今に至るも、植民地をつくりたいのだ。もし、我々が注意深くなければ、一世紀のうちに我々は滅びるだろう。」
[Shock at archbishop condom claim (2007/09/26) on BBC via Aetiology & Pharyngula]
大司教の発言は、AIDSの原因がHIVではないというAIDS再評価運動(HIV否定論)とは異なる。しかし、結果は同じで、コンドームと抗ウィルス薬剤の拒否である。
ナイジェリア北部でポリオ患者が急増、5年前の流言が影響 国際ニュース : AFPBB News
イスラム教徒が多く住む同州では、急進的なイスラム聖職者や一部の医師が「ポリオワクチンには少女を不妊にする物質が入っている。アフリカの人口の減少を狙った米国をはじめとする西側諸国の陰謀だ」と主張。これを受けて同州当局は2003年、ポリオワクチンの子どもへの接種を13か月間停止した。
その後、国内外での臨床試験でワクチンの安全性が確認されたことを受け、ワクチン接種が再開された。だが、そのころまでには、ポリオが絶滅したと考えられていた西アフリカの他国へもカノ州からポリオが拡散してしまった。
さらに、ワクチン接種再開後も、親が子どもにワクチンを受けさせることに積極的になっていないと保健当局は指摘する。
あっちでもこっちでもデマゴーグ。もう目を覆わんばかりの惨状だ。
さらに、こういった陰謀論の中には先進国からアフリカに"輸出"されたものが多い。
例えば南アフリカ共和国の大統領たちが信奉していたUC Berkeleyの生物学教授ピーター・デュースバーグ(Peter Duesberg)とか、"レモンとガーリック"を主張していたドイツの似非医者マチアス・ラス(Matthias Rath)とか。
忘却からの帰還: HIV/AIDS陰謀論一覧
南アフリカの惨状の一因となり、こういう狂信者↓を多数生み出した彼らの罪は重い。
人の命を食い物にする似非連中を裁く法律があればいいのに。
忘却からの帰還: HIV否定論者Christine Maggioreの訃報
亡くなったのはChristine Maggioreという52歳の女性で、「HIVはAIDSの原因ではない」というHIV否定論(AIDS再評価運動)の主張者のひとりである(HIV否定論は、反進化論と温暖化否定論とともに、自然科学分野における3大否定論と呼ばれている)。
このChristine Maggioreは、HIVに感染していることがわかっていながら、母子感染リスクを下げるための抗レトルウィルス剤(ARV)の使用を拒否し、感染のリスクのある母乳養育を行って、娘Eliza Janeに母子感染させた。そして、2005年春にEliza JaneはAIDS関連肺炎で3歳で亡くなった。
しかし、Christine MaggioreはHIV否定論を取り下げることはなく、娘の死因はAIDSではないと主張し続けた。そして、自らもここ半年は肺炎を患い、2008年12月27日に死亡した。
<追記>
さらに詳しく知りたい人向けに、各種統計データへのリンクを載せておく。
英語圏のサイトだけど、統計データだから数字と国名が分かれば意味は理解できるはず。
NationMaster - HIV AIDS > People living with HIV AIDS (most recent) by country
HIV感染者数 感染率はともかく感染者の絶対数で見ると2位インド、14位中国、16位タイなどアジアも既にイエローゾーン。
NationMaster - HIV AIDS > People living with HIV AIDS (per capita) (most recent) by country
HIV感染者数/人口 HIV感染率1%以上の国家は、2001〜2003の時点で43カ国に上る。
アジア圏ではカンボジア1.2%、タイ0.9%など、東南アジアが危険域。
NationMaster - HIV AIDS > Adult prevalence rate (most recent) by country
成人のHIV感染率(2003) スワジランドの感染率38.8%、ボツワナの感染率37.3%など、アフリカ勢がひどいことになっている。
アジアではカンボジア2.6%、タイ1.5%など。
NationMaster - HIVAIDS > Adult prevalence rate 15-49 years, (most recent) by country
成人のHIV感染率(15〜49歳)これは2001年のデータ
NationMaster - HIV AIDS > Women living with aids 15-49 (most recent) by country
女性のHIV感染率(15〜49歳)
NationMaster - HIVAIDS > children orphaned by AIDS 0-14 years, (most recent) by country
親をAIDSによって失ったAIDS孤児の数(0〜14歳)ナイジェリア、エチオピア、コンゴを筆頭に、アフリカ諸国でそれぞれ数十万人単位のAIDS孤児が生まれている。
NationMaster - HIV AIDS > Deaths (most recent) by country
HIV/AIDSによる年間死者数 TOPは南アフリカ共和国。ムベキ政権の負の遺産。2位がインドで30万人がAIDSで亡くなっている点も見過ごせないポイント。
NationMaster - HIV AIDS > Deaths (per capita) (most recent) by country
HIV/AIDSによる年間死者数/人口 絶対数ではなく人口当たりのAIDS死者数で見た場合、ボツワナ、レソト、スワジランドと続く。
NationMaster - Life expectancy at birth > Total population (most recent) by country
平均寿命(出生時平均寿命) 日本のように平均寿命が80歳を越す国々も多くある一方で、サハラ以南の国家には平均寿命が30〜40歳代の国家が多数。
平均寿命が最も短いのはスワジランドの31.99歳
◆関連記事
幻影随想: Survival―生きる―
<修正履歴>
・各種統計データの紹介を追記
・ピーター・デュースバーグ(Peter Duesberg)とマチアス・ラス(Matthias Rath)のWikipediaリンクを追記。
http://www.asahi.com/international/update/0319/TKY200903190290.html
というわけで、法王みずから電波をお飛ばしになっています。
カトリックの「避妊禁止」は、人類に対する犯罪的行為といえるかもしれにゃーです。
馬鹿は死ななきゃ直ら〜な〜い〜♪
人類が大量に出てくるんじゃないかな
必要なのは経済発展のための支援
いやお前んとこはまず予防からやれよ、そっからだろ。とか、そもそも製薬会社ってのは慈善団体か?命に係るからってコピーにOK出してたら、優秀な研究者が製薬会社からいなくなるぞ。あ、これって医療問題と同じだ。とか思いましたね。
どこも受け入れてくんないだろーけど
今日もお元気に電波を飛ばしておられる法王様に、コンドームを送りつける運動が起こっているようですよ。
イタリアやドイツで運動が起こっているということで、いわゆる「お膝元」でも、盲信せずにちゃんと考えている人はいるんだなーと、ちょっとだけ前向きな気分になりました。
http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009032701000632.html
>>6
歴史的に見て、経済発展の為に必要なのは、資本と同等のウェイトで「教育」です。
戦後の日本が奇跡的な経済復興を遂げられたのは、国民全体に基礎教育(読み書き、計算)が行き届いていたから。
アフリカの人たちの識字率・教育普及率を考えると、食と安全の次に教育をどうにかしなくちゃいけないと思います。
それにしても、これほど行くのが怖いW杯、はじめてだよう……orz
都市化によって感染者と非感染者との接触が急増するためです。
都市化は犯罪も急増させるため、それによっても感染者が増えます。
南部アフリカは経済が比較的発展しています。
ジンバブエの平均寿命がある時期から横ばいに転じたのは、皮肉にも経済が崩壊したためです。
最近は崩壊が行き過ぎてコレラが蔓延していますが・・・
その教えを伝える(権力獲得だけに利用したの方が正しいわな)カトリックの司祭どもは
歴史的に見て害悪(科学の発展妨害・魔女狩り等)だけしかまき散らしてないよ。
別に敬虔なカトリックの信者を責めてる訳じゃない。
キリストさんが示したことや聖書の教えの、後年都合良く改悪されていない部分はすばらしいのだろうさ。
ただ、そういうすばらしい部分を勝手に改悪するカトリックの司祭がクズなのは今に始まったことじゃない。
アフリカを食い物にし、現状を作っているのは欧米中であり、我々先進国である。
これらのアフリカの情報を、私達は本当に全て信じていいのだろうか?
エイズ支援よりもまずはアフリカ側の敵対意識をなくす策が必要そう。
人口があふれかえって将来ピンチ、みたいなことを言う人間は昔から多かったが(ポール・エーリックとか)、
その手の悲観的な予測は常に外れ続けた。
結局のところ農業の効率化とか色々な理由でまだリソースに余裕はあるんだ。
アフリカも農業改革の余地は十分あるとの報告があるし、おそらくエイズの方がヤバイだろう。
それにしても、人口爆発とか書き立ててた連中は予測を見事に外したにも関わらず未だにのうのうと別のネタで危機を煽ってるね。
アフリカの人口が減っても地球温暖化をくい止めることにはならんだろうよ。
EUから米、そしてアジアへ。。。
日本も人のこと言えんな
くわばらくわばら
寿命がこんなに下がっているとはね…
知りませんでした。ありがとう。
これだけ異常な出来事が起きているということを
私たちはいかに普段知らないで暮らしているのでしょう。