しかし一部の超人は、氷点下の水のショックに耐えられるばかりか、その状況で1kmも泳いでみせることが出来る。
Superhuman: The secrets of the ice man - life - 24 February 2009 - New Scientist
南極地域の氷床の縁にたたずみ、ルイス・ゴードン・ピューは波の様子を調べた。0度でも、水は彼の下の海ほど冷たくならない。誰にも止められることなく、彼は上着を脱ぎ、スイミングパンツ一枚になって海に飛び込んだ。(リンク先に飛び込む瞬間の写真あり)
ドライスーツも着ずに南極圏でスイミングをするなんて、聞いただけでも寒気のする話だ。
人間の体は、中枢体温が36度くらいまで下がると震えが止まらなくなり、
35度で低体温症になり、
30〜33度で意識を失い、
中枢体温が30度以下に下がると致命的な心臓発作を起こす。
上でも書いたように、普通の人間が彼と同じことをすると間違いなく死ねる。
しかし彼のような一部の超人は、これを可能とする。
一体どのような能力が、この極限環境でのサバイバルを可能とするのだろうか?
彼のような超人は普通の人とは遺伝子レベルで異なっているのだろうか?
今回ピュー氏の超人的な能力を検証した結果分かった事実は、この能力は先天的な資質によるものではなく、大部分がトレーニングによって得られたもの、すなわち、訓練次第で誰もが身につけることが出来る可能性を持つ能力であるという事実だった。
低温に耐える彼の能力は非常に興味深い。
まず彼は、自分の意思でかなりの程度体温をコントロールできる。
As the swim gets closer, he psychs himself up by listening to music by the likes of Eminem and P. Diddy. In the minutes before entering the water, Pugh recalls these emotions and is able to raise his core temperature, without doing any physical exercise, to 38.4 °C. That's an extraordinary 1.4 °C above his normal body temperature. Such "anticipatory thermogenesis" has been observed before, but not to such a high degree, says Timothy Noakes, a sports scientist at the University of Cape Town, South Africa, who has been studying Pugh as he swims.
こっちのページに寒中水泳中の体温のグラフがあるが、
運動もせず自分の意思で体温を1.4度も上げられ、氷水に漬かってなお20分も37度以上の体温を保てるというのはすごいの一言に尽きる。
気が抜けるのか、むしろ水から上がってからのほうが体温の下がり方が激しいくらいだ。
別の調査によれば、ロシアの寒中水泳者にアドレナリン注射を行ったときに同様の反応が観察されており、ピュー氏は自分の意思によるコントロールで体温の上昇を引き起こしているものと考えられる。
もう一つ興味深いのが、震えのコントロール。
人は急激な体表温度の低下に直面すると、自然に体が震え始める。
特に、冷たい水の中に飛び込むようなまねをすると、激しい震えによって体がコントロールできなくなり、同時に起こる過呼吸によって速やかに溺れてしまう。
しかしピュー氏はこれも抑え込んでしまう。
勿論抑え込めるといっても最初のうちは相当苦しいようだが。
Pugh does have one skill that has so far defied scientific explanation: when swimming he can stop himself shivering. Normally, shivering is an involuntary response to cold that kicks in once core body temperature drops below 36.6 °C or when skin temperature falls below 28 °C. This is ususally beneficial, as the muscle contractions generate heat, but in cold water it only serves to increase the rate at which the body cools, Noakes says. That's because the increased blood flow transfers more heat from the core to the body's extremities. Somehow Pugh manages to avoid shivering even when his core temperature is below 36.6 °C and his skin temperature is around 5 °C.
武道で言うところの脱力をうまく使えば、確かに似たようなことは可能だ。
寒さで体が震えるときに、息を吐きながら体の力を抜くことで一時的に震えを止めるくらいまでなら私でも出来る。
#もっとも気を抜くとすぐにまた震え始めるが。
しかし20分に渡る氷点下の寒中水泳の最中それを続けるなんて、どれだけの意志の強さとセルフコントロールがあれば可能なのか、ちょっと想像が付かない。
なんせ彼の挑戦は、泳ぐ傍から手や足の指が凍っていくレベルだからな。
"When I went below 0 °C the cells in my fingers started to freeze. It took another four months before I could feel my hands again,"
氷点下の海に入ると、手の指の細胞が凍り始めるんだ。もう一度手の感覚を感じられるようになるまで4ヶ月かかったよ。
多分彼なら「心頭滅却すれば火もまた涼し」の境地を理解できると思う。
いろんな意味ですごすぎる。
◆参考リンク
英国のスイマーが北極での寒中水泳記録に挑戦
◆参考図書
人間はどこまで耐えられるのか: フランセス アッシュクロフト
気圧、水圧、熱、寒さ、自分の命をかけて人間がどこまで耐えられるのかを調べた科学者達の列伝。
おすすめ。
気温としては日本の秋くらいで、それほど寒くはないのですが、日本から来たばかりの人には、「寒くないの?」と驚かれます。
体重が増えて皮下脂肪が増えたこともありますが、食生活なども欧米かしたからか、白人と同じように寒さに強くなりました。
ちなみに知り合いのアメリカ人は極寒の北朝鮮に軍隊のトレーニングで滞在した後で日本に寄った際、(北朝鮮に比べたら)寒くないやと半袖のTシャツで街を歩き回り、周りの日本人に驚かれたそうです。
長い話を簡潔にすると、白人は寒さを東洋人よりも感じないのだろうということになります。
>運動もせず自分の意思で体温を1.4度も上げられ、
と、
>もう一つ興味深いのが、震えのコントロール。
が矛盾するように思えるのですが、それをやってのけるのが凄いですね。そして、それを明らかにできたということも凄いです。
地元で子供達が泳ぐ川は湧水で、夏でも11度、冬は周辺が霞むくらい湯気がたちます。
夏休み初日、川遊びの解禁日は全身川につかるまで5分くらい掛かります。そして10分も泳いでいると唇は紫色になり震えが止まりません。そうなると、イグアナみたいに熱い石の上に寝て体温回復をはかる。
処が10日も過ぎると、いきなり飛び込んでも冷たく感じず、心臓も全然平気、長く泳いで居ても一向に寒くならない。そして、この頃から飛び込んだ瞬間、全身が熱くなるのを感じました。子供心に面白い現象だなあと。
寒がりな私は想像もしたくありませんが(苦笑)