2009年02月10日

50万円で自分のゲノムを解読できる時代がやって来ます

二年前、アメリカのワトソン博士が自分のゲノムを解読したときに掛かったコストは約1億円。
これは当時としては破格の安さであり、当時他所で同じことをやるなら軽く数億は掛かりました。
幻影随想: 次世代ゲノムシーケンサの本命は?
ワトソン博士のゲノム解読の場合、かかったコストが4か月100万ドルと朝日の記事に書いてある。ただしこれはあくまでも人件費や消耗品のコストなどの必要経費しか計算に入っていない。
asahi.com: ワトソン博士、自分のゲノム公開 DNA構造発見者 - サイエンス
 ワトソン博士は2年前に、米バイオ企業「454ライフサイエンシズ」が提案したゲノムの公開計画に同意。同社は博士の血液をもとに67日間、約100万ドル(約1億2000万円)かけて、塩基配列を明らかにした。


ここ数年、ゲノム解読のコストは価格破壊という言葉すら生温い勢いで急速にコストダウンが進んでいます。
1990年にはじまったゲノムプロジェクトには軽く何百億円もの資金と15年近い歳月が費やされたのに対し、2007年にワトソン博士のゲノム解読に要した時間とコストはわずかその100分の1。
さらに昨年、Applied Biosystemsはこのコストをわずか6万ドルにまで下げて見せました。

Genome is a snip at $60,000 - life - 25 March 2008 - New Scientist
Last week, Applied Biosystems of Foster City, California, announced that it had sequenced the genome of a Nigerian man at a cost of less than $60,000, excluding labour.


そして今年、ゲノム解析のコストはとうとう1000ドルオーダーまで下がるようです。
Genome sequencing falls to $5000 - science-in-society - 06 February 2009 - New Scientist
ゲノムシーケンスが5000ドルまで値下がりする

The price of sequencing a human genome is about to plummet. A company called Complete Genomics, based in Mountain View, California, says it can read entire human genomes at $5000 a shot.
ヒトゲノムをシーケンスするコストが今まさに急落しようとしている。カリフォルニアのマウンテン・ビューに本拠を構えるコンプリート・ゲノミクスという名の会社が、5000ドルでヒトゲノムを完全に解読できると発表した。

Complete Genomics says it can beat that cost by more than a factor of 10, and it is putting its business plan where its mouth is: companies and academic researchers will be able to start placing orders at the quoted $5000 price tag from June this year.

記事によると、コンプリート・ゲノムクス社は、今年の6月から企業・研究機関に対し5000ドルでゲノム解読の受注を開始する模様です。
シーケンス技術はまだまだ発展途上の技術であり、後続他社もすぐに負けじと追いついてくるはずです。数年と経たないうちに、ゲノム解読のコストは1000ドル台にまで下がることになるでしょう。


ワトソン博士はかつて、「ゲノム解析の価格がファミリーカーの価格と変わらないレベルに到達したとき、個人ゲノムの時代が始まるだろう」と語っていますが、今我々はまさにその扉が開く瞬間を目の当たりにしています。
今後5年で、先端医療や健康産業は大きく様変わりしていくことでしょう。ゲノム情報に根ざしたオーダーメードの方向に。
ピロシーケンス法の4時間2500万bpに顎を落っことした3年半年前からは隔世の感がありますね。
当時の自分がたった数年でここまで変わると聞いても、絶対信じなかったろうなあ。
この時代の激流にどれだけの研究者がキャッチアップできているのだろう?
とりあえずバイオインフォ屋としては仕事が増えそうな流れなので歓迎ですが。


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一方その頃日本は…
はてなブックマーク - 日本人の遺伝情報、3年がかりで解読へ…産総研が計画 : 科学 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
時代の最先端から3年分は遅れているのでした。orz
 
 
posted by 黒影 at 00:09 | Comment(2) | TrackBack(0) | バイオインフォマティクス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 10年後くらいには、国民保険でまかなえる額で各個人の全ゲノムが分かるようになり、それぞれの個体差を
    解析できる世になるのがすぐそばに来ているんでしょうね。
  2. Posted by がく at 2009年02月10日 07:36
  3. 個々の人の遺伝情報が判明しても、それを生かすための情報がまだまだ乏しいような。

    とはいえ、コンピューターの処理能力の増大で、意外に早く、個々人に合わせたオーダーメイド医療が実現したりして...
  4. Posted by att460 at 2009年02月10日 20:47
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