2009年01月11日

駆け出し研究者が科学のために立ち上がる方法のガイド

悪質なニセ科学の主張に遭遇して怒りを覚えるというのは、科学に関わるものであれば一度や二度は必ず遭遇するものである。
そういった情況に遭遇したときには、どのような行動を取ればよいのだろうか?
2007年、イギリスの若い科学者らがこの疑問に対し一つの答えを出した。
 
 
 
2007-10-17 - 食品安全情報blogより
自らを「駆けだし科学者」と呼ぶ若い科学者たちが、根拠のない又は疑わしい情報源を根拠に宣伝している製品の製造業者やお客様相談室との会話を記録したものを発表した。
表示に記載されている情報が明確で誤解を招かないものであることを確保することはFSAにとって重大なことである。我々の目的の一つは人々がより健康的な食品を選択できやすくすることで、そのため食品の誤解を招く表示や間違った説明を排除する努力を行っている。
一般人に科学的根拠や良質の科学を利用しやすくすることが目的の慈善信託「科学のセンスSense about Science」が発行したこの歯に衣着せぬ報告書は、彼らが言うように現状のスナップショットを提供するものである。しかし同時に行動の呼びかけでもある。
彼らは全ての人に間違った情報に挑戦することを望んでいる。科学的研究は実験やピアレビューなどの厳しい方法を経て行われるが、一部の製品の表示や宣伝にはいいかげんな根拠のない主張がなされている。この報告書のなかである化学者が言っているように、訳のわからない戯言であることを確認できたら、それを声に出して主張することで誰を信じていいのかわからない人に教えてあげるべきだ。

これはFSA(英国食品基準局)の主任研究員Dr. Andrew Wadgeが、彼のブログに書いた文章である。
Andrew Wadge FSA - Challenging 'dodgy science'

Sense About Scienceは英国のボランティア団体で、社会に重要な悪影響を及ぼすニセ科学や誤った科学的主張に対処することを目的としている。
Sense About Science
Sense About Science is an independent charitable trust. We respond to the misrepresentation of science and scientific evidence on issues that matter to society, from scares about plastic bottles, fluoride and the MMR vaccine to controversies about genetic modification, stem cell research and radiation. We work with scientists and civic groups to promote evidence and scientific reasoning in public discussion.

彼らは日々様々なニセ科学と戦っており、2007年にその若いメンバーらが、彼らの活動成果をまとめた一つのレポートを発表した。

そのレポートが、
There goes the science bit...
副題:駆け出し研究者が科学のために立ち上がる方法のガイド
である。

まずはこの活動のまとめ役となった二人の人物のコメントを
はじめに
証拠を探して
我々はニセ科学の主張に対し、疑問を表明することを決心した駆け出し科学者のグループです。この調査記録は、我々の活動結果をまとめたものです。

Alice Tuff
昨年、慈善団体"Sense About Science"でボランティアとして働き、ホメオパシーの抗マラリア薬の調査を行っていたとき、誤った科学的主張の危険性に私は打ちのめされました。
我々は皆、間違った情報によって失望させられています。そしてこれは危険をもたらしうるものです。私は2007年に"Sense About Science"のスタッフに加わりました。"Sense About Science"のファイルは、「人工の電磁放射から保護する」スプレーから「皮膚を通して毒素を排出させる」パッチまで、人々が送ってくる例で満載です。そして、私はそれらについて何かをしたかったのです。

Frank Swain
私はこれまで、危険な製品の科学的な証明に対して疑問を呈する自分のウェブサイトで、科学の利点、悪い点、醜い点などについて書いてきました。Sense About Scienceのチームに参加するまで、私は科学を支持する駆け出し科学者のグループVoice of Young Science(VoYS)に熱中していました。VoYSの研究者達は、これまでも時折Sense About Scienceに対して疑似科学的な主張の実例を送っており、私は我々がAliceの考えに従って行動し、彼らの正体を暴くための協力を行うべきであると考えました。

Sense About Scienceを知らない人々のために
Sense About Scienceは、化学物質についての誤った情報に対する取り組みからピアレビューの重要性の強調まで、科学的証拠と良質な科学に対するあらゆるパブリック・アクセスを促進する公益信託法人です。慈善団体とともに働く3000人の科学者の多くは、駆け出しの職業研究者です。Sense About Scienceのワークショップを通して出会った後、彼らは自分達地震のグループをつくり、メディア向けのガイド"科学のために立ち上がる(Standing up for Science)"を出版しました。彼らはすぐに、自分だけがニセ科学によって苛立たされている人間ではないことを理解し、この問題に取り組みたがっている他の多くの駆け出し研究者らとともに協力し合うようになりました。

Frankが述べているように、このレポートはSense About ScienceとVoYSの合作である。
このレポートはニセ科学に対する告発であるとともに、怪しい製品およびその販売者にどう対処すべきかの実例でもある。
具体的な応対は実際にレポートを読んでもらったほうが良いので、ここではレポート内で取り上げられているニセ科学の簡単な解説にとどめる。

レポートの中では、合計11のニセ科学が取り上げられている。
1.Nutridirect herbal mixture “can rid you of over 100 types of parasite"
100以上の寄生虫を根絶させると主張する、"Nutridirect"という会社のハーブ混合物製品。
「どういう作用機序か?」という質問に対し、「ウェブサイトを見ろ」「ウェブサイトの記述内容は研究者の言うことをそのまま書いているだけで、会社は内容に対する保障はしない」
「100の寄生虫の内訳は?」に返ってきた答えは、植物や人以外の動物の寄生虫を含むWikipediaの寄生虫一覧。
似非業者のお手本のような回答。


2.“Activ8 yourself”: “Activ8 optimis es the release of energy from our diet”
ネスレが販売していた、Activ8という8種のビタミンやミネラルを追加した、""ヨーグルトに対するツッコミ。
ネスレのカスタマーセンターはActiv8が"科学的に証明されている"と答えたが、どうやって証明されたのかを答えることは出来なかった。


3.Computer Clear uses your PC to release over 34,000 different homoeopathic type remedies into you
"Computer Clear"という名前のコンピュータープログラム。
34000種類のホメオパシーのレメディをバイオレゾナンスパターンという謎の波動に変えてモニターから発するソフトだと主張している。
モニターから出る電磁波は人体に有害(無論そんなことを証明したデータは存在しない)で、彼のソフトはその電磁波を人体に無害なものに変えられるそうだ。
電磁波が人体に無害なものに変わったことを"証明"した方法というのが傑作で、ソフトの開発者は人の「オーラ」が見える人間で、ソフトの有無でモニター前の被験者のオーラが変化するのを確認したそうな。
ちなみにこのソフト、日本でも売ってる。
コンピュータークリアー/Computer Clear HEALINGHOUSE-WAVE - Yahoo!ショッピング
バイオレゾナンスとやらの説明書きもある。
REYONEX 商品一覧 HEALINGHOUSE-WAVE - Yahoo!ショッピング
このインチキヒーリングショップはそのうち改めて取り上げるかもしれない。


4.Champneys detox patches draw out harmful toxins from your body overnight
日本で足裏樹液シートとか言う名前で売られているものの同類。
Sense About Scienceが少し前に改めて検証してまったく効果が確認できなかったという報告書を出していたが、このやりとりでもお粗末な返答しか出来ていない。
新たな報告書の解説をしているPSJ渋谷研究所Xさんのところのリンクを置いておく。
PSJ渋谷研究所X: 英国で若手研究者たちが「デトックスは無意味」と発表


5.Pret A Manger “shun the obscure chemicals”
Pret A Manger(フランス語でプレタマンジェと読むらしい。英語にするとReady to eat.)はイギリスのサンドイッチ屋で、日本にも店を出している。
この店はオーガニック素材を使い添加物も一切なしというのが売りで、まあ早い話が有機天然真理教な店だ。科学者が聞いたら思わず失笑する売り文句を使っている。
Pret a Manger - Our Food
We shun the obscure chemicals, additives and preservatives common to so much ‘prepared’ and ‘fast’ food.

質問者は"obscure chemicals"って何よ?とツッコミを入れて
"We don’t use any chemicals to preserve, or to avoid any insects upon [our food], it’s all natural."
という回答を引き出している。
私ならさらに「塩は酢は砂糖は?どれも最古の添加物かつ保存料でファーストフードにも必ず入ってるぞ?」といじめるところだ。
その後も質問者は"obscure chemical"が結局"“anything artificial that is not a natural thing"であるという楽しい回答を引き出し、さらに彼らが飲料から安息香酸ナトリウムを追放したことにツッコミを入れて"won’t eat products like sodium benzoate.”「安息香酸ナトリウムなんて絶対に口にしない」という回答を得るというGoodJobを連発している。
#安息香酸は天然の果物にも普通に含まれている成分で、リンゴなどには特に多く含まれている。
#当然彼らの売っている「天然」ジュースにも含まれているので、そもそも完全追放なんて不可能な罠。


なお、安息香酸ナトリウムは清涼飲料の保存料として使用されている物質で、イギリスでは2007年にこれがADHDに関連しているかもしれないという研究が報道されて物議をかもしていた。
Pret A Mangerの使用中止も、この研究を受けてなされたものであると考えられる。
ちなみにこの研究は、用量や統計処理などに疑問符がつけられまくってリバイズされており、現時点では安息香酸の使用による健康被害を懸念する必要はない。
安息香酸 - Wikipedia


6.The Co-op removes MSG “because of consumer concern”
消費者の懸念を恐れて食品から一切のグルタミン酸ナトリウムを排除したイギリスの生協。
これは日本の生協でも似たようなことがあったと記憶している。例の悪名高い「買ってはいけない」でも槍玉に挙げられたからな。
ちなみに今回のネタはグルタミン酸が食物不耐性を引き起こすかもしれないという懸念だったらしい。しかしその証拠は何もないといういつものパターン。
そもそもグルタミン酸は天然の食物にも大量に含まれている。
鰹節や昆布はイギリスでは扱ってなさそうだが、トマトとかパルメザンチーズなんかも、大量のグルタミン酸を含んでいるのだ。
味の素はともかくそういった食品どうするよ?とツッコミを入れた質問者は、
生協「消費者が健康被害を懸念するため、我々はそれらを撤去しました」
質問者「あなた方が、健康被害はあると考えていないにも関わらずですか?」
生協「そうです、消費者が懸念するからです。」

というなんともアレゲな回答を得ることとなった。


7.Sainsbury’s remove sodium benzoate from its soft drinks due to customer feedback
これも5のケースと同じ、信頼の置けないセンセーショナルな論文と、それをネタにするメディアの魔のコラボであっちこっち振り回されるという、ここ数十年ほど世界各地で何度も見られる構図。
安息香酸を使わなくなった理由は6と同じく、消費者の懸念と希望によるものだった。


8.Q-link “acts as a master tuning fork…to balance to your biofield”
電磁波を遮断し、体を健康にし、その他色々とご利益をうたうインチキペンダント。
このレポートの11件のネタのうち、質問者のツッコミが最も厳しい回。
「わかりません」連発の電話嬢哀れ。

これも既に日本にも入ってきている。売り文句はこんな感じ。
キューリンクジャパン 電磁波防止Q-LINK正規輸入代理店・全額返金保証
25年以上前から、世界でもトップの大学(スタンフォード大学(米)、カリフォルニア大学(米)、ウィーン大学(オーストリア)、インペリアルカレッジ(英)、ウロンゴン大学(豪)等)で調査されており、実際にキューリンクが非常に効果のあることが科学的に立証されています。

研究データとして出されているものを見たら、ちょっと前の「血液サラサラ」と同じトリックを使っていて笑った。
参考:幻影随想: YouTubeで学ぶ疑似科学


9.Aerobic Oxygen: stabilised oxygen “that does not have a formula.”
アメリカの水商売。
水に数滴混ぜるだけでどんな汚い水も浄化され、病原菌が死滅すると謡う、"化学物質を含まない"謎の製品。
化学物質という言葉を、その意味をきちんと理解せぬままマジックワードのごとく使うインチキ業者は多すぎる。
ついでに、電話で応対した人間はこれを霧吹きに入れてエジプト旅行に持って行ったらしいのだが、残念ながら腹痛を避けられなかったらしい。自分の言葉の意味を理解せぬまま口を滑らせるのはある意味ほほえましいが、「腹痛になったんだ?」と突っ込まれてあわてて言い訳をする様子はなかなかに滑稽だった。


10.Salt Lamp: heated Himalayan salt improves your health
喘息を治しADHDを改善すると謡う岩塩ランプ。
キャンドルや電球に灯をともすと、熱せられた岩塩から陰イオンが放出され、人工的な電磁波によって生まれる有害な陽イオンを取り除くらしい。
要は日本のマイナスイオン製品のあちら版である。

「塩が熱でイオン化ってどんだけエネルギーがいると思ってんだよ。」
という物理化学を知る人間にとって当たり前すぎるツッコミに対して、当然業者は答えられない。
「科学的証拠がある」といいつつ論文を示すことも出来ない。
健康に良いという証拠は?と聞かれても、ウェブサイトを見てくれとしか答えられない。
どうみても典型的な似非科学業者です。本当にありがとうございました。
ちなみに、この岩塩ランプも既に日本に入ってきている。

ソルトクリスタルランプ『岩塩ランプのメーカー直営 公式ショップ』
【 ソルトランプ・岩塩ランプ 】メーカー直営店//アースコンシャス


11.Clarins Magnetic Defence Complex “protects against Artificial EMF”
証明されてもいない"電磁波の害"から皮膚を守るとするスプレー。
メールで質問のリストを投げてもまるで答えになっていない返事しか返ってこず、やり取りを重ねているうちにイギリスの広告規制局から誇大広告で摘発されてしまった。


最後にこのレポートのまとめを引用して終わるとしよう。
科学的証拠を探す試みの中で、我々は二つのことを学びました。
1.自分達の作った主張に対して挑戦を受けることを、誰も予期していませんでした。
これは通常彼らがそうされることが無いということを示唆しています(おそらくこれは、いくつかのケースで、会社の質問窓口の雇用者が、質問に答えられるだけの情報を与えられていないことの理由であると考えられます)
2.我々がこれをやらなかったら、誰がやるのか?
若い科学者の声ネットワークは、より多くの人々―科学の全ての分野、本当にあらゆる職業の人々―が、誤った情報に戦いを挑む活動に参加するように勇気付けるため、この寸評を公開します。我々はまた、以下に我々の主旨書を記載します:

我々の主旨書
我々はニセ科学的な主張が市民の恐れにつけこみ、彼らを欺き誤解させる科学の俗説を広げる様にうんざりしています。我々は一般人がニセ科学的な主張に基づく製品や活動によって惑わされることは間違っていると思います。我々の科学的な研究がピア・レビューを通して責任を負わされるのに対し、なぜこれらの主張は同様の厳しさを持ってテストされないのでしょうか?
特にこれまで質問されてこなかった質問に対する答えを要求することで、我々はニセ科学のより詳細な調査を行い、誤った情報を公開し、責任者に釈明を求めることを奨励します。

彼らの行動の趣旨は、私がこのブログで疑似科学ネタを取り上げ続けている理由とまったく同じものである。
ゆえに私は、このレポートを翻訳し紹介することで、彼らの活動に対する賛意と称賛を表明する。
そしてこのエントリを読んでくれた人に対して、同様にアクションを起こすことを期待する。

難しく考える必要は無い。
ニセ科学に対する批判を公開することだけが、ニセ科学に対するアクションではない。

ニセ科学批判の記事を読み、その記事への賛同の意見を表明するだけでもいい。
リンクとともに一言コメントを追加するだけでも、十分意味のある行動である。
ひょっとしたらそのリンクをたどって批判の存在を知ったことで、将来騙される危険を免れる人がいるかもしれないのだから。

怪しい製品や活動を見つけたときに、それを批判者に知らせるというのも重要な行動である。
個人的には、ブログのコメント欄に情報提供を受けるよりは、はてなブックマークに「疑似科学」か「ニセ科学」のタグをつけてクリップをしておいて貰えると、簡単に情報の集積と共有が可能でデータベース化もしやすいのでありがたい。

そしてもちろん、VoYSのメンバーがそうしたように、インチキ業者に対して突撃を敢行してその結果を公表したり、あるいは自分の専門知識を元に、ニセ科学の主張の嘘を暴く情報を公開するというのも大歓迎である。少なくともウェブ上には、このような活動を支えるだけの下地が既に出来ていると私は考えている。
一人でも多くの人間がこのエントリを読み、新たに行動を始めてくれることを私は期待している。
この記事へのコメント
  1. 初めまして。

    >リンクとともに一言コメントを追加するだけでも、十分意味のある行動である。

    感銘を受けました。ので、早速実行しますw。
    ところで、細かい所ですが。

    >イギリスのサンドイッチ屋で、日本にも店を出している。

    TB先でも書きましたが、プレタ・マンジェは日本から撤退したようです。日本法人の代表が撤退直後に「NATURAL BEAT」というチェーンを始めたらしいんですが、ロッテリアの出資らしいですし(この辺噂の域を出ません。申し訳ないです)同コンセプトの別ブランドと考えて良いかと。
  2. Posted by T-3don at 2009年01月12日 17:10
  3. >T-3donさん
    プレタ・マンジェは既に撤退してましたか。ちょっと情報が古かったようです。
    TBとご指摘ありがとうございます。
  4. Posted by 黒影 at 2009年01月18日 21:13
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  6. Posted by 水着 通販 at 2013年07月21日 04:39
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Excerpt: 幻影随想様でとても興味深いエントリーが上がっていました。駆け出し研究者が科学のために立ち上がる方法のガイド 悪質なニセ科学の主張に遭遇して怒りを覚えるというのは、科学に関わるものであれば一度や二度は..
Weblog: みつどん曇天日記(仮)
Tracked: 2009-01-12 17:00

気が付けば1年
Excerpt: 近頃本業の方が忙しくて中々次のエントリーがまとまらないでいたのですが、よくよく考えてみたらブログデビューして早一年が過ぎていました。
Weblog: 杜の里から
Tracked: 2010-06-23 23:25
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