経緯は以下のエントリから。
・10分で分かる韓国の生命倫理問題 倫理問題に関するまとめ(問題の発端)
・韓国の生命倫理問題に関する急展開について データ捏造疑惑の発覚
・黄教授による論文データ捏造確定 データ捏造疑惑確定。細胞写真の重複について。
問題のデータの解説の内、国内ではまだDNAフィンガープリントの問題を詳しく解説しているところが無いので書いてみた。
韓国では既に図入りで説明がなされている。
・所長 科学者たち "'DNA 指紋分析 結果' 操作された"
簡単な説明用に自己引用。
DNAフィンガープリントとは、DNAをある特定の配列で切断したときにどのような大きさの断片が出来るかを見たものだ。
ヒトは一人一人DNA配列が異なる為、現れる断片のパターンを観察することで細胞の持ち主を特定する事が出来る。
最近では犯罪捜査などにも用いられている方法だ。
さて、問題は別々のサンプルから試料調整されたとは思えないほどのパターンの類似性だ。
ドナーから取った細胞でES細胞を作ったのだから現れるパターンが同じなのは当然なのだが、
この論文のデータはきれいに一致しすぎるのだ。
通常別々の細胞からDNAを採取して、それを制限酵素で切断して解析すると
同じ系統のサンプルであってもノイズや波形などに微妙な違いが出て来る。
それがこの論文のデータではピークの大きさや波形がドナー細胞とそこから造ったES細胞とで非常に似通っている。
物によってはパターンがドナーとESでノイズに至るまで一致とか。
(このあたりの説明は上記の韓国の掲示板で詳しく書いてある)
一つや二つのサンプルでの一致なら偶然で済むが、ほとんどがそうだとなると話は変わってくる。
それは確率的にありえないことだからだ。
幻影随想: 韓国の生命倫理問題に関する急展開について
以下図入りで説明。
問題の論文はこれ。
Patient-Specific Embryonic Stem Cells Derived from Human SCNT Blastocysts
Hwang et al.
Science 17 June 2005: 1777-1783
DOI: 10.1126/science.1112286
この論文のFig.2と、Supporting Online Material(PDF)のFig.S2がヤバイ。
これらのFigは患者から取った細胞と、そこからクローニングされたES細胞のDNAフィンガープリントの比較なので、ピーク位置が一致するのは当然である。しかし本来ならば下の図のように、ピークの大きさ、波形、ピーク面積比が異なったり、あるいはノイズの出方が違うのが自然なのである。
Fig.S2-B、NT-hESC-11
この図はドナーとクローン細胞のピークを色を変えて重ね合わせたものだ。
ピークが一致するとそこは黒くなるようになっている。
また、韓国の研究者が指摘した以前のファン教授の論文の図も参考になるだろう。
所長 科学者たち "'DNA 指紋分析 結果' 操作された"
これらの図のピークのばらつき加減を良く覚えて、下のFigを見ていって欲しい。
上の図に較べるとサイエンス誌に載ったFig.2を見てみると、異常なまでに波形が一致する。
これは同一のDNAサンプルをテストしたのでなければありえないほどの一致だ。
Fig.2、NT-hESC-2、3、4
(もっとも4だけはノイズパターンがかなり違うのでおそらく白ではないかと思う)
SOMのFig.S2では更にひどいことになっている。
ノイズに至るまでピークが一致するサンプルがゴロゴロしているのだ。
Fig.S2-B、NT-hESC-09
Fig.S2-B、NT-hESC-12
これはほんの一例である。
何せピークが一致しないFigを探すほうが難しいという状況なのだ。
Fig.S2を貼り付けておくので興味のある人は自分でチェックしてもらいたい。
https://blackshadow.up.seesaa.net/image/figs2a.jpg
https://blackshadow.up.seesaa.net/image/figs2b.jpg
https://blackshadow.up.seesaa.net/image/figs2c.jpg
https://blackshadow.up.seesaa.net/image/figs2d.jpg
二度までなら偶然で済ませることも出来るだろうが、三度続くとなるとこれは最早偶然で片付けられるレベルではない。
既に論文のFigを前にどうこう言っていられるレベルも超えている。
データの捏造はどこから見ても明らかなのだ。
ES細胞の出自を証明する為のデータに偽造があるということは、
すなわちES細胞が本当に作れたのかどうなのかという疑問に直結する。
これは得られたES細胞の真偽を再実験して確認しないことには収まらないだろう。
<追記>
ごめん、もう一つあってはならないものを見つけた。
同じ人間から取ったものとはいえ別ラインのDNAフィンガープリントがノイズまで一致してる。どういうことよ、これ?
こっちも細胞写真と同様捏造確定でいいですか?
Fig.S2-D、NT-hESC-4、5
笑いが止まらん。まだあったよ。
Fig.S2-D、NT-hESC-6、7
例としてNT-hESC-6、7の一致について連続画像で解説してみるので、
画像ビューワーを持っている人は一端HDDに落として連続再生してみて欲しい。
まず一枚目。
これはドナー6のグラフのコピーを赤色で作成したところだ。
次にコピーした赤いグラフを少しずらしてみる。
さらにちょっとずつNT-hESC-6のグラフに重ねていくと…
はい、ぴったり一致。
驚くのはまだ早い。本題はここからだ。
次にこれを更にドナー7に近づけていく。
するとまたしてもぴったりと一致。
さらにNT-hESC-7にも…
やはり一致。
ドナー6、NT-hESC-6、ドナー7、NT-hESC-7の全てのピークが一致するのである。
同様のことは4と5についても言える。
よく見たらFig.S2のA〜Dまで全て4と5、6と7はピークが全く同じだな。
つまりNT-hESC-4とNT-hESC-5、NT-hESC-6と7はドナー、ESともに全く同じサンプルを流していると考えていいのか。
なんか頭が痛くなってきた。
<追記>
参考までにファン教授の以前の論文に載っているデータで同じ事をやった場合のFigも載せておく。
ピークの大きさや位置、形が違う為上のグラフのようにぴったりとは重ならない事が分かるはずだ。
NT-hESC-1-A
ピークの位置や大きさがかなり違う為ほとんど重ならない。
NT-hESC-1-B
やはりピークの大きさや位置が微妙に違うので上の方のFigほどには重ならない。
(ただし横方向に引き伸ばせば重ねられないこともない)
NT-hESC-1-C
ピークの形や高さはかなり似ているが、NT-hESC-1ではノイズや9、11のピークに違いが認められる。
またteratomaでは13、10のピーク出現位置が明らかにずれており、ノイズのパターンも異なっている。
後は見る人の判断に任せる。
◆関連エントリ(Related Entries)
・10分で分かる韓国の生命倫理問題(Summary of South Korean Researcher's Bioethical violation.)
・韓国の生命倫理問題に関する急展開について(Bioethics scandal of South Korean Cloner Developed into the Suspicion of Fabrication.)
・黄教授による論文データ捏造確定(Looking into the Duplication of ES Cell Photos.)
・DNAフィンガープリントを眺める(Weird accordance of DNA finger print patterns.)
・シャッテン教授逃走。いよいよ事態は最終段階を迎えたか。(U.S. Scientist Withdraws Name From Hwang Paper)
この件は全くの専門外です。しかし、ここ3日分の
エントリーを読んでいて背筋にゾゾゾっと来る
ものがありました。そこまでして、この教授一味は
何を得たかったのでしょうねぇ!?
ソウル大, 再検証実施決定(総合)
2005/12/11 17:36
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20051211/030000000020051211173650K4.html
黄教数チーム "4大疑惑はファン・ウソク殺し" 主張
2005/12/11 18:56
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20051211/030000000020051211185714K1.html
<黄教授チーム `疑惑解明' 報道資料専門>
2005/12/11 19:19
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20051211/030000000020051211192004K5.html
<幹細胞真偽疑惑申し立てで再検証決定まで>
2005/12/11 21:05
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20051211/030000000020051211210536K7.html
異形期教授 YTNに謝り要請
2005/12/11 22:26
http://www.yonhapnews.co.kr/news/20051211/030000000020051211222645K1.html
名誉欲と韓国社会からのプレッシャー、でしょうか?
こういうピークパターンをAFLPとかで見たことがあるんですがあってあまりに一致しすぎていますね。
ドナーサンプルをES細胞のものと偽ってドナーサンプルと一緒に実験してながしたと考えていいのでしょうか?それともドナーサンプルの波形だけを2種類の色に分けて示しているだけなんでしょうか?どっちにしても編集者とかレフリーは気がつかないものなのか悲しくなってきますね。それにしても綺麗だ、、、。
当方、生物・化学は全く門外漢ですので、こちらのサイトの解説はとても勉強になります。
週末はいろいろ動きがあったようですね。
斜め上とはよく言ったものです。
今後とも、貴サイトで勉強させて戴きます。
失礼致します。
、◆黄禹錫教授の研究と関連した論争の社会的波紋に対する遺憾表明、◆研究結果の真偽に対する疑惑に対する懸念、◆科学界の内部的な検証前にメディア媒体を通しイシュー化してしまった問題、などを指摘し、「大学の1次的機能が真理を守る」とし、「真実性を守る時、ソウル大学の名誉と国益が保障される」と話した。
盧貞恵処長は調査委員会に対し、◆黄教授の要請を受け実施、◆今日からすぐ稼働、◆すべての内容は公開せず、結果事項はソウル大学広報部を通してのみ公開、◆調査委員会の構成は校内者とし、必要な場合のみ外部者を含めるとした。
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2005/12/12/20051212000034.html
はじめまして。
>ドナーサンプルをES細胞のものと偽ってドナーサンプルと一緒に実験してながしたと考えていいのでしょうか?
ノイズが微妙に異なるのでおそらくそうではないかと。
ちなみに元のFigを見てもらえれば分かりますが、染め分けは私が分かりやすいようにと行ったものです。
>ma62473mさん
そう言って頂けると光栄です。
先週末は本当に事態が一気に動きました。
今は一段落していますが、今週は欧米のメディアが一斉に動き出しますよ。
私はとりあえずNYTあたりの動きを見るつもりです。
>上の名無しコメンターさん
コメント欄に記事を張って頂くのは構いませんが、
出来ればそれに何かコメントをつけて頂きたいのですが。
もちろん論文出した側も酷いのは確かなんですが、
サイエンス誌も大概ですね。
普通は突っ込むだろうと思うのですが…。
よくreject食らわなかったと不思議ですよ。
まったくです。
ここまでおかしな点が揃っていてよくアクセプトされたものだと思いました。
欧米の記事が出始めたのでついでにリンク。
擁護一辺倒な韓国の新聞とは違い、ちゃんと正確に問題を把握しているものが目立ちます。
Hwang's Team Accused Of Fabricating Stem Cell Photos - Yahoo! Australia & NZ News
http://au.news.yahoo.com/051212/3/x6g6.html
New Criticism Rages Over South Korean Cell Research - New York Times
http://www.nytimes.com/2005/12/10/international/asia/10cell.html