2005年12月04日

死の確率計算

人は、いつか必ず死ぬということを思い知らなければ、生きているということを実感することもできない。
by M. ハイデッガー

生と死の格言2

死は全ての生物に平等である。
何人であれ、死から逃げることは出来ない。

死が不可避であるのならば、それを織り込んだ人生設計をするのが賢明な生き方というものではなかろうか?
以下に統計データから見る年齢別の死亡率と主な死因を記載する。
 
 
 
まず使用したデータの説明から。
今回は平成16年度の厚生労働省の人口動態統計資料を参考にした。
厚生労働省:平成16年人口動態統計月報年計(概数)の概況
もう少し具体的に書くなら、用いたデータはこの3つの表である。
第4表  死亡率(人口10万対)の年次推移,性・年齢(5歳階級)別
第6表  死因順位1)(1〜5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別
分母に用いた人口

これらのデータを一つの表にまとめたものがこれである。
30代以下では死因のトップ3を、40台以上でトップ5を記載している。

死亡率、死因(人口10万対)の年齢別(5歳階級)推移
年齢年齢別死亡数
(死亡率:10万対)
主な死因(死亡率:10万対)
0〜44280(75.4)0歳:先天奇形等(106.6)、呼吸障害(37.9)、乳幼児突然死症候群(19.1)
1〜4歳:不慮の事故(6.1)、先天奇形等(4.3)、悪性新生物(2.4)
5〜9610(10.3)不慮の事故(3.5)、悪性新生物(1.8)、その他新生物(0.7)
10〜14590(9.8)不慮の事故(2.5)、悪性新生物(2.0)、自殺(0.8)
15〜191925(28.8)不慮の事故(10.6)、自殺(7.5)、悪性新生物(3.2)
20〜243240(43.2)自殺(17.5)、不慮の事故(11.7)、悪性新生物(3.3)
25〜294155(48.6)自殺(20.0)、不慮の事故(9.3)、悪性新生物(5.7)
30〜345970(62.0)自殺(21.3)、悪性新生物(10.1)、不慮の事故(9.3)
35〜397405(87.2)自殺(23.3)、悪性新生物(21.0)、不慮の事故(9.9)
40〜4410075(129.6)悪性新生物(36.5)、自殺(28.4)、心疾患(15.2)、脳血管疾患(10.7)、不慮の事故(10.5)
45〜4916100(207.5)悪性新生物(73.9)、自殺(32.4)、心疾患(25.0)、脳血管疾患(19.3)、不慮の事故(13.7)
50〜5431305(339.4)悪性新生物(145.3)、心疾患(39.0)、自殺(36.8)、脳血管疾患(30.3)、不慮の事故(18.0)
55〜5946480(485.1)悪性新生物(223.4)、心疾患(55.9)、脳血管疾患(43.5)、自殺(36.8)、不慮の事故(23.0)
60〜6461580(715.3)悪性新生物(341.9)、心疾患(88.6)、脳血管疾患(62.9)、自殺(34.0)、不慮の事故(28.9)
65〜6981505(1114.7)悪性新生物(526.8)、心疾患(142.0)、脳血管疾患(107.6)、肺炎(42.9)、不慮の事故(40.0)
70〜74117120(1817.5)悪性新生物(794.6)、心疾患(242.0)、脳血管疾患(193.8)、肺炎(102.3)、不慮の事故(62.0)
75〜79152180(2994.5)悪性新生物(1099.4)、心疾患(438.4)、脳血管疾患(371.1)、肺炎(253.1)、不慮の事故(98.3)
80〜84160455(4980.0)悪性新生物(1395.7)、心疾患(838.3)、脳血管疾患(717.3)、肺炎(569.9)、不慮の事故(153.6)
85〜89154825(9038.3)悪性新生物(1852.1)、心疾患(1679.0)、脳血管疾患(1446.5)、肺炎(1279.7)、老衰(291.2)
90〜168235(16607.6)心疾患(3298.2)、肺炎(2822.3)、脳血管疾患(2592.5)、悪性新生物(2086.7)、老衰(1583.2)
合計1028700(815.3)悪性新生物(253.9)、心疾患(126.4)、脳血管疾患(102.2)、肺炎(75.7)、不慮の事故(30.2)


◆死の確率計算書
(便宜上、特に断りのない限り全て平成16年のデータで計算します。世代によって確率が変わるという突っ込みは無しの方向で)

最近生まれた子供が、無事5歳まで成長する確率は0.996。
これは1000人の子供が生まれたら、その中の4人は5歳を迎える事が出来ないということである。
ちなみに昭和50年代ならこの数字は0.987、1000人に13人だった。
医療の進歩で乳幼児の死の危険は少なくなっているが、それでも250人に1人というのはかなり侮れない数字だ。
一番危険なのは生後1年に満たない乳児の時期で、最も多いのは先天的な障害に起因する死だが、呼吸障害や乳幼児突然死症候群(いわゆる突然死)もある程度の数が確認される。

乳児期を抜けて幼児期から少年期、ローティーンくらいまでは死亡率が非常に低い。
死亡事例の多くは事故死―交通事故、水難、転落等―で、悪性新生物(若年性ガン)がそれに続いている。
事故死は当人や周囲の注意、努力でかなり危険を減らす事が出来るので
乳幼児期の危険を潜り抜ければこの期間はかなり平穏である。
(もっとも私はこの時期5〜6回交通事故にあったことがあり、一度はタイミングがちょっとでも違えばかなり危なかった。不注意で起きた事故もあるが、気を付けていても不可避な事故もある。まあおかげで非常に慎重な性格になったが。)


○最近生まれた人が20代まで生き残る確率は現在0.994。
1000人生まれた中の994人は次に駒を進めることができる。


◆ハイティーン〜青年期、壮年期のリスクと生存率
さて、ハイティーンから20代にかけてのいわゆる青年期にはがらりと死の様相が変わる。
生活リスクがローティーンまでとハイティーン以上では大きく変わるようだ。
まず事故死が増える。ローティーンでは世代当たり年間200人ほどの事故死が、ハイティーン以上では800人前後と約4倍にまで跳ね上がる。
そして自殺が年間2000人近くまで激増し、20代以降では40代前半までの死亡原因のトップに居座ることになる。
最近中高年の自殺が騒がれる事が多いが、自殺の増加傾向はハイティーンからの連続した現象なのである。
統計データの表6をさらに詳しく読んでいくと、面白い傾向が見つかる。
事故死と自殺に顕著な男女差が見られるのだ。


◆男性の自殺数は女性の3倍以上
表6では男女別に分けた死因の分析も行われているのだが、
これを見ると自殺によって死亡する人は女性よりも男性が圧倒的に多い。
これは全ての世代に共通した特徴である。
事故死が女性よりも男性でやや多いのは社会構造の影響ということで理解できるが、
自殺数の差はハイティーンから既に存在するなど、それだけでは説明がつかない部分が大きい。
無論社会的ストレスの影響は間違いなくあると思うが、
男性の方が女性よりもストレスに弱いという疫学的な研究を以前見た事があるので、
ひょっとするとその辺の生理的な違いも関わっているのかもしれない。

総じて男性は女性よりも自殺のリスクが高い。これは間違いない。
世の男性諸兄、そして夫や恋人を持つ女性はどうかお気をつけを。


◆ガンのリスク増加
さて、世代別の死因データを見ていくと、20代あたりから目に見えてガン(悪性新生物)の死亡数が増えていく事が分かる。
40代前半には自殺を押しのけて堂々の首位である。
現在日本人の死因のトップはガンだが、これは40代以降の世代の主な死因がガンである事が理由だ。

○現在20代以降の人間が40歳まで生き残る確率は約0.988。
現在20歳の人が1000人いたとすると、そのうち40歳まで生き残るのは988人。
0歳からの確率なら0.981、40歳までの生存者は1000人中981人である。


◆中年以降のリスクと生存率
主に40〜60歳あたりの年齢層の死因リスクについて。
中年以降の死因はほとんどがガンや成人病である。
自殺のリスクも男性ではさらに上昇している(女性ではそれほど変わらない)のだが、
他の要因のリスク増加がはるかに上回っている為に目立たなくなってしまっている。
40歳〜60歳の間にガンのリスクは級数的に増加するのだ。
50代以降では毎年1000人中の1人か2人はガンで亡くなるまでになってしまう。

ガンの種類として著しく増えているのが肺ガン。(このリンク先の表8、図8参照
平成16年度のガンの死亡数、死亡率ともにトップである(44000人)。
罹った時の死亡率は男性では70%を超えており、非常に致死性の高いガンだ。
長生きしたければ肺ガンのみならずガンのリスクを劇的に上昇させるタバコは控えた方がいいだろう。

どうでもいいが男女でガンに罹った時の致死率が倍近くも違うのはやはり免疫力の違いなのか。
やはり男は幸薄いのだろうか。

○現在40歳の人間が60歳まで生存する確率は0.943。
現在40歳の人間が1000人いたら、そのうち60歳まで生きられるのは943人である。
0歳からのトータルの確率ならば0.926。1000人中926人になる。
そろそろロシアンルーレットの当たりが出る確率が気になってくる頃だろう。


◆高齢者のリスクと生存率
60歳を超えるともう一般的には高齢者といっていい年齢だと思う。
この世代ではもちろん最大のリスクはガンなのであるが、それに加えて循環器系の障害もリスクが大きくなってくる。
また、肺炎が主要な死因に登り始めるのもこのあたりからである。
免疫力と体力が低下した結果、ちょっとした風邪でも命取りになってしまうのである。

ここから先は5歳刻みで見ていこう。

○現在60歳の人間が65歳まで生存する確率は0.964。
0歳からのトータルの確率ならば0.894。とうとう生存率9/10を切ってしまった。

○現在65歳の人間が70歳まで生存する確率は0.943。
0歳からのトータルの確率ならば0.845。

○現在70歳の人間が75歳まで生存する確率は0.912。
0歳からのトータルの確率ならば0.771。

○現在75歳の人間が80歳まで生存する確率は0.859。
0歳からのトータルの確率ならば0.662。80歳までの生存率は3人に2人である。

○現在80歳の人間が85歳まで生存する確率は0.775。
0歳からのトータルの確率ならば0.513。生存率2人に1人。

○現在85歳の人間が90歳まで生存する確率は0.623。
0歳からのトータルの確率ならば0.319。10人に3人は90歳まで生きられる。
もっとも80歳以上の高齢者の3分の2は女性であり、男性の生存率はこれよりもやや低くなる。


◆まとめ
死因リスクと生存確率の簡単なリストを作成してみたがいかがだっただろうか?
各世代ごとの期待寿命でも追加できればなお良かったのだろうが、そこまで気力が持たなかった。
何かの参考になれば幸いである。

高齢化が進んでいる日本社会だが、平成12年の段階でも既に平均寿命は77歳を超えていたので、おそらく今の平均寿命は80歳近くなっているはずだ。
再生医療の急速な発達を見るに、現代に生まれた者であれば本来の人の体の限界(120歳くらいといわれている)を超えてさらに長寿命化する可能性も否定しきれない。
しかしながら、どれだけ寿命が延びようと人は必ず死ぬ
これは避けられない宿命である。
そうであれば自分がどれくらい生きられるかを把握して、その上でどのように自分の命を使うかを考えるのが有意義な人生の過ごし方というものだろう。

「死」は人間の最大の関心事の一つでありながら、普段はそれに触れる事が半ばタブーとなっている。
しかし生と死は表裏一体であり、死を否定することは生を否定することと等しい。
死が存在するからこそ人生は貴重なのだ。
冒頭のハイデッガーの言葉は私が好きな言葉の一つである。


◆関連エントリ
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posted by 黒影 at 20:33 | Comment(2) | TrackBack(1) | サイエンストピックス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. ガンの統計についてはこういうものもあるということでリンク

    悪性新生物罹患数、罹患率および年齢階級別罹患率(平成8年 <平成7年〜9年値>)の統計表
    http://www.ncc.go.jp/jp/statistics/2001/tables/t07_j.html
  2. Posted by 黒影 at 2005年12月07日 01:57
  3. 平成19年のデータで生存率の表を作りました。
    それぞれの年齢の期待寿命も分かります。
    http://tknottet.sakura.ne.jp/pension/LivingProb.php
    (古い記事へのコメントですみません。)
  4. Posted by TK at 2007年05月24日 01:40
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