2008年06月17日

携帯電話でポップコーンを作れるのは、映画の中だけのフィクションです

先日の「携帯でポップコーンが弾ける?」の続報。
気が付いたら何かあちこちで騒いでいたので、
「え、この程度のネタ動画に引っ掛かっちゃうの?」とか思ってたら、
あっさり仕掛け人による暴露が行われて、騒いだ人が軒並み梯子を外されて面白いことになっていた。

何を隠そう、実は一連の騒動は、懐疑主義者達によるビリーバー、準ビリーバーを一網打尽にするための壮大なトラップだったのだ(大嘘)
とか言ってみる。
 
 
 
さて、数日前にWiredVisionに流れた、このネタ動画の作り手の告白を取り上げてみよう。
400万ビュー獲得:「携帯電話でポップコーン動画」の正体が判明 | WIRED VISION
数の携帯電話が同時に受信するとその真ん中に置いたポップコーンがはじけるように見える、YouTubeで話題沸騰の動画について、Bluetoothヘッドセットの販売を手がける米Cardo Systems社が自分たちの作品だと名乗り出た。

YouTubeに6月11日(米国時間)に投稿されたCellphone Popcorn Mystery Resolved[携帯電話ポップコーンの謎が明らかに]というタイトルの動画では、同社のハンドセット製品シリーズの広告が、携帯電話でポップコーンを囲む人たちを映したアマチュア撮影っぽい動画の後に続いている。

「一連の動画は山火事のように広まり、一種の都市伝説になった。(今回の口コミ型マーケティングによるキャンペーンは、)さまざまなタイプのユーザーの関心を惹くことができたという点で大成功だ」と、Cardo Systems社のマーケティング・マネージャー、Kathryn Rhodes氏は12日、電話によるインタビューで述べた。

仕掛け人のサイトには現在こんなページが存在する。
Making popcorn with a cellphone happens only in the movies
The contents of these videos are fictious and humorous optical illusions, designed for entertainment. Nothing in these videos is meant to imply that mobile phones can make popcorn and Cardo Systems, Inc. ("Cardo") specifically disclaims that these videos contain any portrayal of facts or comments about safety. Cardo disclaims any liability for the information in these videos.

これを訳すならこんなところか
携帯電話でポップコーンを作れるのは、映画の中だけのフィクションです
これらのビデオの内容は、娯楽目的に作成されたフィクションであり、ユーモラスな目の錯覚です。これらのビデオの内容は携帯電話でポップコーンができることを意味しておらず、カルド・システムズ社(以下カルド社)は特に、これらのビデオが安全性についてのいかなる事実またはコメントの描写も含むことを否定します。カルド社はこのビデオに含まれる情報について、いかなる責任も負いません。

この携帯ポップコーン動画は、YouTubeユーザーの心理を見事に手玉に取った、実に上等なネタ動画と言っていい。
実際600万人もの人間(無論何割かは懐疑論者だろうが)がこの動画に釣られたわけで、バイラルマーケティングとしては過去最大級のヒット率じゃないだろうか?
少なくとも騙された人間は、その会社の製品を買いたいと思うかどうかは別として、カルド社の名前を簡単には忘れないだろう。

疑似科学ウォッチャーとしても、このネタ動画の騒動は実に興味深いものだった。
最初に私は「この程度」と書いたが、それは私がこの手のネタに免疫を持っているから言える事であって、改めて詳しく見ると、この動画は周到な計算の上で、色々とテクニックを弄して作られていることがわかる。
例えば上記免責コメントを読めば、このバイラルマーケティングを設計した人間が、一連の動画がYouTubeユーザー達にどのように影響を与え、どういった反応を引き起こすかをかなり正確に予測していた事が理解できる。おそらく設計者は科学と疑似科学および、人間心理に相当詳しい人間だろう。最初は冗談で書いたが、実際これを作った人間は疑似科学について良く理解した懐疑主義者か、それに順ずる者である可能性がかなり高いと思う。


YouTube - Pop corn with cell phones : from Cardo Systems



◆携帯ポップコーン動画に使われているテクニック
さて、この動画がネタであることは既に議論の余地がない部分だが、
なぜ大勢の人がこれに引っ掛かったのか、その辺のテクニックをちょこっと考察してみようと思う。
これら動画群はどれも一分に満たない短いものだが、実によく出来ている。
これを作った人間は相当頭がいいよ。


1.「黙示録的情報伝達」による視聴者の思考誘導
このネタ動画に使われている一番重要なテクニックが、この「黙示録的情報伝達」による視聴者の思考誘導だ。
この動画の仕掛け人は、明らかに「電磁波危険説」について熟知しており、それを動画のネタとして利用している。
それも「電磁波危険説」を知る人間がこのネタ動画を見たときに、どういう反応をするか計算した上で、だ。

以前『疑似科学と「空気」の研究』でも書いたことだが、映像というのはそれ自身多くのメッセージ、思想性を内包している。
『空気の研究』P.214より
先日原子力発電の今井隆吉博士が「その人に提供し、その結果その人が持っているはずの情報量と、その人の態度変更とは関係ない」ことが、さまざまの調査の結果明らかになり非常に驚いた旨話された。簡単に言えば原子力発電について三、四時間かけて正確な情報を提供し、相手の質問にも応じ、相手は完全に納得したはずなのに、相手はそれで態度は変えない。そして、今の説明を否定するかの如く見える一枚の写真を見せられると、その方に反応してしてしまうという。<中略>こういう事例は挙げていけば際限がない、というより逆の事例を探すほうが困難なわけである。

諸所の社会運動において顕著に見られるこうした性質は、疑似科学においても共通する。水伝や千島学説、911陰謀論などをはじめとして、参考事例には事欠かない。では、こういった反応はなぜ引き起こされるのか?
なぜこうなるのか?描写とか図像には思想性はないと人が思い込んでいるからである。ところが描写も図像も一つの思想を伝達しており、ある画像がどのような思想を伝達したかを研究する図像学(イコノグラフィ)という学問もあり、黙示文学もこの観点から「言葉にする連続的な映像の積み重ねによる思想の伝達方法」として研究されなければならないのである。
以上のような目で日本の新聞を読むとき、人々はそれがある種の思想を黙示録的に伝達することによって、その読者に一切の論理・論証を受けつけ得ないようにして来たことの謎が解けるはずである。戦時中の報道の研究、中国報道の研究、公害報道の研究等すべてをこの観点から行っていけば、単なる描写の積み重ねのように見えるものが、実は、ある種の思想で人々を拘束して、絶対に態度を変えさせなくする黙示録的伝達であったことを人々は覚るであろう。

今回のネタ動画も、一見ただのネタ動画ではあるが、電磁波の危険/恐怖という暗黙のメッセージを、それもかなり強烈に刷り込まれている。
そしてその効果は「電磁波危険説」の知識を持つ人間に対し、特に強く発揮される。
その暗黙のメッセージを無防備に受けるとどういう反応を示すことになるか、
申し訳ないがサンプルとして「5号館のつぶやき」のstochinaiさんにご登場願おう。
5号館のつぶやき : 笑い事ではない:携帯ではじけるポップコーン
 びっくりしました。

 携帯電話を3台から4台用意して、机の上に放射状にならべ、その交点に当たる部分にはじける前のポップコーンを置き、一斉に着信させるとそのポップコーンがはじけるという「遊び」が世界的にはやっているようです。
<中略>
 電子レンジで作ることのできるポップコーンが売られていますので、電磁波であるマイクロ波がポップコーンをはじけさせることは当然なのですが、これらの動画は、同じマイクロ波を使っている携帯電話を3台から4台集めると、ポップコーンをはじけさせるほどのエネルギーを持った電磁波が出せるということの「実験的証明」ということになります。

 もちろん、何か種や仕掛けがある可能性はまだ否定できませんが、これは笑って遊んでいる場合ではないと思います。

 携帯会社や通商産業省、厚生省さらには子どもが使う時の危険を考えると文科省も、要するに政府や国連がこぞって早急に調査を開始すべき状況だと思います。

  ほんとうに笑い事ではないですよ!

残念ながら、その反応は完全に彼らの手のひらの内だ。
黙示録的伝達と特に相性のいいメッセージは恐怖、死、病といった本能に訴えるネガティブなメッセージである。
本能的な部分に働きかけるものだけに、知識学歴に関係なく、はまる時はすぽっとはまってしまう。

これがいかにも科学者面した人間がまじめくさって実験を行い、電磁波の危険を訴えるような動画では、逆に不審を買ってしまい良くない。
あくまでも暗黙のうちに電磁波の危険を訴え、視聴者が自分で「電磁波の危険性」に到達するよう誘導するのが黙示録的伝達のキモである。
人間は自分で到達した(と思っている)考えからは、容易に脱却できないからな。
そして人の思考を誘導するには、周到に計算された映像があればそれで事足りるのだ。


2.フレーミングが起こることを前提としたネタ選定
この動画に用いられているテクニックの二つ目が、絶妙なさじ加減のネタ選定だ。
日経トレンディでも取り上げているが、携帯ポップコーンというのは知名度は低いが都市伝説として既に知られている物だ。
このネタを持ってくる時点で仕掛け人が都市伝説や疑似科学にかなり造詣が深いことは明らかだが、少数でも誰かが知っているネタを選定すれば、それは当然フレーミングの元となる。
そして頭記の免責コメントを見れば明らかなように、このネタ動画の仕掛け人は、この動画に関する議論が巻き起こり、懐疑論者からの批判が殺到する事を前提として動いている。
つまり、このネタ動画に関して各所で議論が巻き起こるところまで全てが仕掛け人の想定の範囲内ということ。今回見事にネットを手玉に取った仕掛け人は、今頃笑いが止まらんだろうね。まったく天晴れだよ。


3.ネタ動画の多国同時展開による印象操作
3つ目のテクニックは、ネタ動画の複数展開による印象操作。
今回のネタ動画の場合、アメリカ、日本、フランスというYouTubeユーザーの多い3国をターゲットとして複数の動画を作成し、世界中でこの実験に成功しているという印象操作を施している。
国内のブロガーを軽く検索してみても、あっさり引っ掛かっている人間が多数見受けられるな。
かなりベタな方法ではあるが、こういうやり方はいつだって効果的だ。
おそらく各地の掲示板なんかにも動画の宣伝を行うためのサクラを仕込んでいたはずだと思うのだが、そういった検証はまだ誰も行ってないんだろうか?

ついでに、動画の投稿者が全て同じであることが、このネタ動画がネタとばれた理由の一つのように言われているが、ネタの絶妙なさじ加減からいっても、私はこれはネタであることをうまいタイミングでばらす為の仕込みじゃなかったのかと疑っている。これだけ手の凝ったことをしているくらいだから、本気でYouTubeユーザーを騙すつもりなら、動画ごとに別アカウントを取るくらい何の造作もないからだ。


◆まとめ
・携帯ポップコーンはやっぱりネタ動画でした。
・このネタ動画には高度な思考誘導のテクニックが使われているよ。
・このネタを取り上げた人間は、私も含めて皆仕掛け人の手の内で踊らされてるよ。
・メディアリテラシーは大事だね。


◆関連記事
幻影随想: 携帯でポップコーンが弾ける?
幻影随想: 疑似科学と「空気」の研究(その1)
幻影随想: 疑似科学と「空気」の研究(その2)

<6/17加筆>


この記事へのコメント
  1. ヘッドセットなら携帯で直接話すより安全というイメージを植えつけたかったのかどうかは分かりませんが、見る人によっては誤解を与える映像を作り、「いかなる責任も負いません」と宣言しても、責任を問うことは可能かもしれません。携帯電話会社とかポップコーンの会社とかから。
  2. Posted by LiX at 2008年06月17日 14:04
  3. 今までさんざん電磁波の人体への影響は調べられてきたこと、今まで携帯電話で爆死した人はいないこと、論文などではなくいくらでも操作できる映像であったことを考えると、やっぱりこれは騙される方が不用心だったと感じます。損害賠償という話はたまに聞きますけど、純粋無垢な子羊ちゃんをちょっと引っかけることが罰されるなら、どんなジョークも言えなくなるような・・・

    とはいえ出てくる若者の演技は素晴らしかったし、三ヶ国分つくるのは用意周到で、タチの悪いジョークと感じる方がいるのは理解できます。
  4. Posted by Momo at 2008年06月18日 11:29
  5. 数十万個くらい集めたらなんとか…
    (その前に機器が故障しそうです。)
  6. Posted by 逆に… at 2008年06月23日 20:23
  7. 俺がやったらできたって人俺の周りで結構
    いるけど、実際どうなんだろうね。

    信用するとか信用しない以前にど〜でもいい話である。
  8. Posted by ガソダム at 2008年06月28日 04:17
  9. > 俺がやったらできたって人俺の周りで結構
    いるけど、実際どうなんだろうね。

    この話も、こういう言い方で、都市伝説化して残ることになるのでしょうね。
    ・実際にやってできた人がいるという印象を植える
    ・でも、伝聞形式で自分自身では見ていないことにして逃げ道を作る
    という言明を「可能性はある」と思ってしまうか「証拠能力皆無」と思うかが聞く側の分かれ道かな。
    (「可能性」も幅がある言葉なので、語る時はそこそこ高いと聞こえるように話して、突っ込まれたら「可能性がないとは言い切れない」と非常に小さいものを拾っているような言い方に逃げるとか)。
  10. Posted by hir at 2008年06月30日 19:26
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